労働契約と業務委託契約の違いと留意点
弊所への問い合わせにおいて、例えば美容室におけるスタイリストと事業主との契約、マッサージ店におけるセラピストと事業主との契約において、業務委託契約の契約審査をご依頼いただくことが多くあります。
ただ、スタイリストやセラピストの方と事業主との契約は、労働契約とみられるケースも多く、労働契約とみられるか、業務委託契約とみられるかによって、契約の終了判断(労働契約であれば、例えば解雇については厳しい制限があるが、業務委託契約では違反事項に対する契約解除が比較的認められやすい)や、対価の取扱い等多くの違いが生じてきます。
本来労働者である立場の方と、業務委託契約をするようなことは認められるべきではありませんが、スタイリストやセラピスとについては、その専門性、裁量性等から事業者と認めるべきケース、実態も多くあり、その場合には、労働契約とみなされないよう、事業主としても、適切な業務委託契約を締結しておく必要があります。
本稿では、労働契約と業務委託契約の違いに着目し、特に業務委託契約書に記載すべき重要ポイントについて解説致します。
Contents
1 労働者とは
上記検討にあたっては、「労働者」とは何か、から説明する方がわかりやすいと思われます。
労働基準法では、労働者とは、職業の種類を問わず、「事業又は事業所に使用される者」で、「賃金を支払われる者」(9条)とされています。労働基準法は、労働条件の最低基準を定めることを目的としていますので、このような法律の定める労働条件による保護を受ける対象とすべき者を確定する概念として「労働者」という定義がなされています。
このような保護を受けるべき者か否かは、一般的には、次のような基準を前提に、個別具体的に判断されています。
1 使用従属性
(1) 指揮監督下の労働であること
ア 仕事の依頼、業務指示等に対する諾否の自由の有無
イ 業務遂行上の指揮監督の有無
ウ 拘束性の有無
エ 代替性の有無
(2) 報酬の労務対価性
2 労働者性の判断を補強する要素
(1) 事業者性の有無
ア 機械、器具の負担関係
イ 報酬の額
(2) 専属性の程度
(3) その他
*昭和60年厚生労働省「労働基準法研究会報告(労働基準法の「労働者」の判断基準について」から引用
2 裁判例からみる業務委託契約のポイント
以上を踏まえると、業務委託契約書に記載すべきポイントがクリアになってきますが、一つ裁判例をご紹介し、そのポイントを説明致します。
マッサージ店経営における、事業主とセラピストとの関係で労働契約か業務委託契約かが争われた東京地判平成27年1月16日の事例では要旨、次のように示し、当該契約は業務委託契約であると判断しました。
①契約書
セラピストは、手技療法業務を行った場合にのみ、セラピスト及び被告間で合意した単価に基づき計算した金額を支払い、その余の補償等は一切行わないことが定められているほか、各々の施術内容については各セラピスとの裁量に委ねる旨の記載がある一方で、セラピストが業務を行うに際して被告の指揮命令等に従う旨の記載がない
②指揮監督下の労務提供の有無について
ア 稼働日・稼働時間の拘束性の有無
セラピストの稼働日や稼働時間については、基本的にセラピスト自身がこれらを自由に決めることができたと認めるのが相当である。
イ 稼働場所の拘束性の有無について
業務遂行場所は両者間の合意で定められるほか、他店のヘルプを要請されることがあったとしても、それに応じるかはセラピストの任意である。稼働場所について拘束されていたと評価することは出来ない。
ウ 施術の担当等に対する諾否の自由の有無について
セラピストは自らのシフトを自由に決め、確定した後も自らの都合により変更することが可能である。施術の担当につき諾否の自由があると評価するのが相当である。
エ 業務遂行上の被告による指揮監督の有無について
個別の施術の実施についても各セラピストが自らの判断で施術の順序や方法等を決定して行っていたと認められる。教本等が存するが、未経験者向けに基礎知識や基本的な手技について解説したものであるなど、注意喚起や基礎知識等の習得または確認等の趣旨で作成され、配布されたものであるから、業務遂行上の指示や命令があったと評価することは出来ない。
オ 代替性について
契約上施術の途中で何らかの事情により施術の継続に支障が生じたとしても、別のセラピストが代わりに施術を継続することは禁止されておらず、業務に代替性がある。
③ 労務対賞性の有無について
セラピストが受け取る対価は、各セラピストが実施したボディケア等の施術が完了したことに対して、個々の施術毎に発生する完全出来高性であり、施術を行っていない時間帯について対価が発生しない。よって、労務対賞性があるとはいえない。
④ 事業者性の有無について
各セラピストにおいて事業所得として確定申告していたこと、自由に兼業できたこと等からセラピストに事業者性が認められる。
3 業務委託契約書のポイント
以上を踏まえ整理致しますと次のようにポイントを整理できます。
① 指揮監督下にあるかどうか
契約書上、諾否の自由、拘束性の有無を明確にする必要があります。例えば、シフトについては、顧客サービスのためには穴が生じないようにしなければなりませんが、変更を一切不可とするような契約は労働契約と判断される方向になります。
また、待機時間中なども、その時間に何をするかは、事業者とし顧客サービスに向けた態勢を整えておくほかは、自由としておかねば、労働契約と判断される方向になります。
またセラピストであれば、施術の方法、スタイリストであればヘアメイクの方法などについて、事業主の指示指導の要素が強ければ労働契約と判断される方向になります。
② 報酬の労務対価性
対価が何に対する対価であるかについても、前記判例のように、契約書上、個々の施術完了に対して発生するものと明記しておく必要があります。定額で補償する(支払う)費用があるとしても、その費用の名目・性質が何であるのか契約書上明らかにしておくべきです。
4 実態が重要です。
このように、契約書に落とし込むべきポイントはありますが、やはり実態が一番重要です。諾否が自由、拘束性がない等と契約書に記載しておきながら、実態はそうではないとなれば、裁判上は労働契約であると認定されることは大いにあり得ますので、実態に合わせた契約関係を構築いただきたいと思います。
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