懲戒処分に必要な適正手続~懲戒処分が無効とされないためのポイント~

懲戒処分にあたって、必要な手続をとらない結果、懲戒処分が無効となるケースがあります。その典型例の一つとして、「弁明の機会の付与」の有無が裁判例で良く争われますので、その点本稿で解説致します。

 

1 就業規則に定めがある場合

労働契約法15条では、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、当該懲戒は、無効とする。」という規定が設けられています。

就業規則に、例えば「前条の懲戒処分を行う場合には、弁明の機会を付与するものとする。」という規定がある場合、弁明の機会を付与せず行った懲戒処分は、手続として相当性を欠き、社会通念上相当ではないものとして、無効とされます(東京高判H16.6.16)。

ここで、「弁明の機会」とは何かが問題になりますが、あくまで被疑事実が示されてこそ、弁明が出来ますので、就業規則に規定のある懲戒事由を前提とした、懲戒の被疑事実を示して、その言い分を聞く機会が「弁明の機会」と評価されます。

また、言い分を聞く機会であって、会社側とやりとりをする機会ではありません。よくある例として、懲戒処分の対象者である従業員の説明に納得出来ず、同席した使用者側の者が反論したり、言い分を撤回させたりするケースもありますが、このような対応をしてしまっては、弁明の機会の付与と認められない可能性がありますので、くれぐれも留意が必要です。

 

2 就業規則に定めがない場合

就業規則に、弁明の機会を付与する必要がある旨の定めがない場合に、果たして弁明の機会の付与なく懲戒処分を行って良いか(無効とならないか)が問題となります。

裁判例は分かれているという評価もありますが、実際の裁判においては、ほぼと言って良いほど、労働者側からは弁明の機会がなく、手続の相当性を欠き懲戒処分が無効であるという主張がなされます。

また、裁判所としても、就業規則の定めの有無にかかわらず、懲戒処分が社会通念上相当であったかどうかを判断するために、必要な弁明の機会が付与されたかどうかは関心を持って証拠関係を見てきます。

その点で、少なくとも会社側としては、就業規則の定めに拘わらず、弁明の機会は必ず付与すべきですし、裁判例でも実際の多くの場面では、弁明の機会があったと評価できる労働者と使用者のやりとりがあると言えます。

 

3 弁明の機会の実務対応

弁明の機会で労働者側から言い分が出されたとしても、会社側として具体的な証拠をもって認定出来るのであれば、言い分に反した認定を行ったうえ、懲戒処分を行うこと自体はなし得る対応です。

 

弁明の機会を付与とする上においての準備事項としては、

①就業規則上の懲戒事由を確認し、該当する事由を明らかにしておくこと

②該当する被疑事実関係を明らかにしておくこと

③具体的な証拠関係は確認しておくこと

が、対象となる労働者に通知する前に必要です。その上で、対象となる労働者に対しては、

④当日ではなく、なるべく遅くとも前日までにおいて

⑤懲戒の嫌疑(上記①②)があること

⑥その言い分を聞くこと

を通知し、弁明の機会を付与することが必要です。

また、実際の場面においては、

⑦言い分を聞くことに徹底し、会社側から反論しないこと

も重要です。

 

 

加えて、弁明の機会においては、双方疑義が残らないように、録音を前提に行うことも検討していただくと良いかと思います。

会社側としては、弁明の機会を付与すると、証拠隠しや言い逃れの準備期間を与えてしまうのではという懸念を持つことがありますが、弁明の機会の付与が欠けることは、懲戒処分自体が無効となる可能性があり、また、本来、事前に確たる証拠関係は保全しておくべきですので、十分な準備をもって、手続を履践していただきたいと思います。

 

4 最後に

弊所では、懲戒処分の手続の相当性を確保するためのサポートも行っておりますので、ご相談いただければと思います。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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