事業譲渡契約書のポイント・留意点を弁護士が解説

本項では、事業譲渡契約書のポイントとなる部分について、ひな形を例に条文を解説致します。

事業譲渡契約書の書式サンプルについてはこちらをご覧ください。

 

第1条(目的)・第2条 (譲渡資産等)

第1条(目的)

甲は、本契約書に定める条項に従い、 年 月 日(以下「本件譲渡日」という。)をもって、甲の事業の一部(以下「本件事業」という)を乙に譲渡し、乙はこれを譲り受ける。

第2条 (譲渡資産等)

1 甲及び乙は、本件事業に含まれる資産及び負債の内容が、別紙資産等目録記載の通り(以下「本件資産等」という。)であることを確認する。

2 甲及び乙は、本件事業に含まれる契約が、別紙契約目録記載の通り(以下「本件契約」という。)であることを確認する。

3 甲及び乙は、本契約により譲渡される本件事業には、本件事業に関するノウハウ、顧客情報その他一切の営業秘密が含まれることを確認する。

事業譲渡は、その名のとおり、会社の事業の全部又は一部を第三者に譲渡することをいいます。より法的に言えば、一定の目的のために組織化された有形、無形の資産、従業員、ノウハウ、取引先との関係などを含むあらゆる財産を「事業」と呼んでいます。

事業譲渡は必ずしも経営権の譲渡は伴いません。経営権の譲渡については、株式譲渡契約によって行われています。

事業譲渡はこのように経営権の譲渡を伴わないため、例えば売り手が事業の選択と集中を図るために、コア事業ではない事業を譲渡したりする場合で、買い手にとっては魅力的な取得したい財産である場合等に双方の利害が一致します。

第2条では、解説した「事業」の定義を前提に譲渡資産等の確認を行っています。

 

第3条 (譲渡価格)

第3条 (譲渡価格)

1 本件事業の譲渡対価(以下「本件譲渡価格」という)は、     円とする。

2 乙は、甲に対し、前項の金員を  年  月  日限り、下記口座宛に振り込む方法により支払う。振込手数料は乙の負担とする。

譲渡価格についての合意事項を明記しています。仮に譲渡資産の評価時点を契約締結時から修正する可能性がある場合には、必ずその旨を明記し、また修正を行う計算式等についても、明記をしておくことが望ましいと言えます。

ここでは、事業譲渡価格の算出の仕方について詳しく触れませんが、いわゆる営業権と言われるものを譲渡資産の時価に加えて算定されることが多く見られます。

 

第4条 (従業員の承継)

第4条 (従業員の承継)

1 甲及び乙は、本件譲渡日の前日において本件事業のために甲に雇用されている従業員が別紙従業員名簿記載の通りであることを確認する。

2 乙は、前項の別紙従業員名簿記載の従業員について、本件譲渡日以降、従前と同一の条件で新たに雇用契約を締結する。ただし、乙との雇用契約の締結に同意しない従業員についてはこの限りではない。

3 前項において、乙との雇用契約の締結に同意しない従業員については、甲において引き続き雇用の継続等、甲の責任と負担において当該従業員との労働契約関係の処理を行う。

事業譲渡時における権利義務関係の承継は特定承継とされており、労働契約も同じです。したがって、労働契約を承継させる場合には、承継予定労働者から個別に同意を得る必要があります。労働契約を承継させる条文を用いることもありますが、ひな形は、別の例として、承継についての同意形式ではなく、新たな雇用契約の締結を予定する条文としています。

いずれにしても、譲渡会社等は、労働者から真意による承諾を得るまでに十分な協議ができるよう、時間的余裕をみて当該協議を行うことが必要です。

また、事業譲渡を理由とする解雇については、整理解雇に関する判例法理の適用があり、承継予定労働者がそれまで働いていた事業が譲渡されたことのみを理由とする解雇など、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当とは認められない場合に該当する解雇は、解雇権の濫用として認められません。

退職や承継に同意しない労働者との関係では、譲渡会社等は、承継予定労働者を譲渡する事業部門以外の事業部門に配置転換を行うなど、承継予定労働者との雇用関係を維持するための相応の措置を講ずる必要があります。ひな形の第3項はこの点を意識した内容です。

 

第5条 (譲渡資産の移転・対抗要件)

第5条 (譲渡資産の移転・対抗要件)

1 甲は、本件譲渡日後速やかに、本件資産等のうち、対抗要件の具備を要する資産等について、対抗要件を具備するための手続等を行うものとし、乙は必要な協力を行う。

2 前項の手続に要する費用は、すべて甲の負担とする。

事業譲渡は前記のとおり、権利義務の特定承継です。権利の移転に伴い、対抗要件の具備を要する場合には、その費用負担などについて合意したおくことが重要です。

なお、許認可も承継されませんので、譲受会社にて許認可の再取得が必要です。

 

第6条 (手続の履践)

第6条 (手続の履践)

甲及び乙は、それぞれ、本件譲渡日までに、本件譲渡を必要とする会社法上の諸手続を履践し、それを証する以下の各号の書類の写しを相手方に交付する。

①本件譲渡を承認する取締役(会)議事録

②本件譲渡を承認する株主総会議事録

事業譲渡では、譲渡会社および譲受会社は、一定の場合を除き、事業譲渡の効力発生日の前日までにそれぞれの株主総会で特別決議による承認を得る必要があります(会社法467条)。

そのため、これら手続を履践したことを証するために相互に株主総会議事録等を交付する条文を設けています。

 

【特別決議が必要な場合】

①譲渡会社で特別決議が必要な場合

・全事業を譲渡する場合

・事業の重要な一部(総資産の20%を超える事業)を譲渡する場合

・事業の全部の賃貸、事業の全部の経営の委任、他人と事業上の損益の全部を共通にする契約その他これらに準ずる契約の締結、変更又は解約

等です。

②譲受会社で特別決議が必要な場合

・全事業を譲受する場合

【株主総会の特別決議が不要な場合】

①譲渡会社で特別決議が不要な場合

・簡易事業譲渡の場合(事業譲渡により譲渡する資産の帳簿価額が自社の総資産の20%を超えない)

・自社の総資産の20%超の資産を譲渡する場合でも事業の重要な一部の譲渡に該当しない場合

・略式事業譲渡の場合(事業譲渡(事業の重要な一部の譲渡の場合を含む)の相手方が、自社の議決権がある株式を9/10以上保有している特別支配会社である)

②譲受会社で特別決議が不要な場合

簡易事業譲受の場合(他社の全事業を譲り受ける場合であっても譲り受ける資産の帳簿価額が自社の総資産の20%を超えない)

第7条 (競業避止義務)

第7条 (競業避止義務)

甲は、本件譲渡日後○年間は、○○エリアにおいて、乙の事業と競業する事業を行わない。

事業譲渡では、譲受会社の利益保護のため、譲渡会社は、同一市区町村および隣接市区町村内にて、事業譲渡したものと同種の事業を事業譲渡日から20年間行うことができません(会社法21条)。

もっとも、法律上は原則20年間ですが、譲渡会社、譲受会社双方の合意があれば、事業譲渡契約書で特約を設けて最長30年に期間延長することも、20年より短期に合意すること、競業避止義務自体を設けないことも可能です。

 

その他、公租公課の負担等事業譲渡契約において定めるべき条文もありますが、以上ご参考にいただければと思います。

 

また、事業譲渡契約は、事業譲渡の検討、譲渡先の選定、譲渡先候補者とのNDA締結、基本合意、DDの実施、その後の会社法上の諸手続の履践を経て締結されることとなり、スケジューリング自体も極めて重要ですのでくれぐれもご留意ください。

 

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