内定通知書・内定取消通知書・本採用拒否通知書の書き方

 

1 内定通知書・内定取消通知書の書き方

1 「内定通知書」の書き方

⑴ 内定とは

内定とは、入社前=労務提供前ではあるものの、労働者を採用することが決定している状態を指します。

入社に至るプロセスは、一般的に以下のように整理されます。

入社までの一般的プロセス 法的整理
企業による求人 労働契約の申込みの誘因
求職者が応募 労働契約の申込み
採用選考を経て、

企業から採用内定

労働契約の申込みに対する承諾
入社 労務提供の開始

つまり、採用内定によって、使用者と応募者の間に、「始期付き・解約権留保付き労働契約(=就労開始時期が定まっているものの、それまでの期間に内定取消事由が生じた場合に労働契約を解約する権利が企業に留保されている労働契約)」が成立します。(なお、場合によっては、採用内定通知を発した後に、内定式など労働契約成立のための正式な手続が存在することもあり、その場合には当該手続後に労働契約が成立すると解されることもあります。)

 

内定の法的性質については、弊所HP別稿「内定をめぐるトラブルを避けるために」もご参照ください。

⑵ 内定通知書に記載すべき主な事項

内定通知書は、応募者に対して、採用決定を正式に通知する書面であり、法的には労働契約の成立を意味する重要な書面です。

以下のような事項を記載することで労働条件を明確にすることが可能となり労働条件に関する紛争を予防することができます。

 

    ・入社予定日

    ・勤務条件(勤務地、労働時間、給与、雇用形態、休日、保険等)

    ・試用期間の有無と内容

    ・必要書類や手続

    ・内定辞退の手続と期限

    ・内定取消事由

 

さらに、使用者側としては、入社前の内定期間中であっても、「事前研修への参加を義務付けたい」「内定者として扱うにあたって企業秘密の保護を義務付けたい」「内定者から近況報告書を提出してもらいたい」といった要望があり得ます。労働契約自体は成立しているものの、就労開始前・内定期間中の法律関係について、そのような義務が生じているかは、当事者間の合意によって個別具体的に決定されるものです。後々のトラブルを避け、内定者としての自覚を持ってもらうためにも、そのような内定期間中の義務を明示しておくことも内定通知書の役割といってよいでしょう。

 

また、以上の事項について、誓約書等を準備し、内定者に提出してもらうこともトラブル防止に有効です。

 

2 内定の取消し

⑴ 内定の取消しとは

    使用者が採用内定を出した後に、やむを得ない理由で採用を見送らざるを得なくなった場合、内定を取り消すことが考えられます。

ただし、前述のとおり、内定によって「始期付き・解約権留保付き」ではあるものの「労働契約」が成立していると解されるため、一方的な解約は「解雇」にあたり、制限されます。すなわち、留保していた解約権の行使=内定取消は、労働契約法16条に基づき「客観的合理性」と「社会的相当性」が要求されます。

内定通知書に記載していた事由が生じたからといって、自動的に内定が取り消されるものではないことに注意が必要です。

⑵ どのような場合に内定取消が認められるか

    内定取消が適法なものと認められるかは、解約権留保の趣旨・目的に照らして、その行使が権利濫用にあたらないか、個別具体的に判断されます。内定取消しは、精神的・財産的損害を与え、他社に就職する機会をも奪う可能性がありますので、厳しく判断されるのです。

 

    留保された解約権を行使できる場合としては、以下の場合が考えられます。

   ・ 卒業不可(学業不振による留年)

   ・ 健康状態が悪く業務に著しく支障をきたす場合

   ・ 経歴詐称など信頼関係を著しく損なう事情が判明した場合

   ・ 犯罪行為又はこれに類する非行を犯した場合

   ・ 経営状況の著しい悪化など、経営上やむを得ない事情(ただし内定者に責任はないため、整理解雇の4要素に沿った厳格な判断)

 

    解雇権濫用法理は、当事者間の合意内容にかかわらず適用される強行的な規範であるため、内定通知書に記載された取消事由に該当するからといって、当然に適法な解雇とはならないことに留意しなければなりません。

 内定の取消しができる場面について最高裁判例を解説した弊所HP別稿「内定をめぐるトラブルを避けるために」も併せてご参照ください。

⑶ 内定取消が違法と判断された場合の効果

    内定取消が解雇権の濫用として違法とされた場合、内定取消(解雇権行使)は無効となり、不法行為や債務不履行として損害賠償責任を負うのみならず、労働者としての地位が確認されることがあります(労働契約法16条)。

    さらには、内定取消そのものが適法であったとしても、内定取消までの過程で会社側が必要かつ適切な対応をしなかったことを理由に、使用者が内定者に対して損害賠償責任を負う可能性もあります。

    また、内定取消しが2年以上連続して行われている、内定取消が同一年度内で10名以上に対して行われているなど、一定の条件に該当する場合、厚生労働大臣が会社名を公表できることとされています。

内定の取り消しにより、会社イメージを大きく損なう可能性があるので、慎重かつ適切な対応をしなければなりません。

⑷ 内定取消通知書の作成

  以上のようなリスクやトラブルを避けるために、適切な採用内定取消通知書を作成・交付するべきです。

  取消事由によりますが、内定者のどのような行為・事由が、どの取消事由に該当したのかについて具体的に記載することが肝要です。

    前述のとおり、内定通知書に記載された取消事由に該当するからといって、当然に適法な解雇となるわけではありませんが、紛争に発展した際、適法性判断の解釈の指針・参考になるため、業種や使用者の状況に応じた取消事由を内定通知書に記載しておくことが重要です。また、内定通知書に取消事由を記載しておくことによって、内定取消しの予測可能性を担保することができますし、内定者の行動規律としても働きます。

 

2 試用期間とは何か?本採用拒否通知の書き方

1 試用期間とは

従業員を採用した後、入社後の一定の期間を、その従業員の人物や能力を評価して本採用するか否かを判断するための試用期間とすることがあります。試用期間については、その適用対象や期間について法律上の規定はありませんので、就業規則で定める必要があります(なお、試用期間を設けるか否かは使用者の自由です)。この点、試用期間を設ける趣旨は、短期間の採用手続では職務適正等を正確に把握・評価することが困難であるため、採用後一定期間就業させて見極めるという必要性にあり、これに鑑みると、6か月を超えるような長期にわたる試用期間を設けることには問題があります(※弊所HP別稿「10か月間の試用期間は認められるのか?についての相談事例」も併せてご参照ください。)。

 

試用期間を設けるにあたっての注意点は、その従業員は、試用期間中であっても、労働契約に基づいて業務に従事した対価として賃金を得ている「労働者」に変わりはないことです。したがって、本採用の拒否は「解雇」にあたり、解雇の手続に沿った対応が求められます。

 

3 本採用の拒否

1 本採用の拒否の法的位置づけ

試用期間中の勤務状況や採用過程での虚偽申告などにより、本採用を拒否したい場面があり得ます。

    試用期間中も解約権留保付きとはいえ労働契約が成立していることは前述のとおりです。そして、本採用拒否は留保していた解約権の行使にあたるため、本採用後の通常解雇よりは広い範囲で認められるものの、裁判実務上使用者にとって厳しく判断される傾向にありますので、解雇権の行使は慎重にしなければなりません。具体的には、解約権留保の趣旨・目的に照らして客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認できる場合にのみ許されます。

 

また、試用期間の14日目を超えた後に本採用拒否を行う場合は、通常の解雇同様に「解雇予告」若しくは「30日分の解雇予告手当」が必要になることにも注意が必要です(労働基準法21条但書4号)。

 

また、試用期間の延長は、本採用拒否よりは穏当な手段であり、延長して慎重に判断したという説明が可能になりますが、契約上の根拠として、就業規則に「試用期間の延長」について期間を明確にして定めておくことが必要です。その場合でも、試用期間を設ける趣旨に鑑みると、延長は1回、期間は合計して3~6か月程度にとどめるべきでしょう。

 

2 どのような場合に本採用拒否が認められるのか

採用決定後の調査の結果、または、試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合において、その者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断される場合に、本採用拒否=留保解約権の行使が客観的に相当と認められます。

 

例えば次のような場合が該当します。

    ・業務に明らかに適さない(勤務態度、著しい能力不足)

    ・採用時に重大な経歴詐称があった

    ・健康状態により業務継続が著しく困難である

    試用期間を設けるにあたっては、どのような資質・能力が求められるのか、どのような場合に本採用拒否とするのかについても、事前に雇用契約書又は就業規則に明示しておくことが望ましいです。

 

3 本採用拒否通知の作成

⑴ 本採用を見送る場合は、「本採用拒否通知」または「解雇通知」を書面で交付することが望ましいです。

⑵ 記載すべき主な事項

  「採用決定後の調査の結果、または、試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実」に該当する事実を具体的に記載するべきです。

また、本採用拒否の適法性を担保するために、試用期間中の適格性評価やその改善指導の実績について具体的に記録しておき、必要に応じて記載することがトラブルの予防につながります。

 

4 最後に

採用・解雇に関するトラブルは、企業イメージやその後の採用活動に大きな影響を与えかねません。

万が一のトラブルに備え、書面の整備と、法的リスクを踏まえた対応が重要です。

必要に応じて、弁護士にご相談ください。

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