試用期間と解雇・本採用拒否の相談事例

【相談】

① 3か月の試用期間で採用した新卒学生がいますが、上司の指示にも従わず、職場内の雰囲気も悪くなっています。試用期間の途中ですが、解雇したいと思っていますが可能でしょうか。

② 3か月の試用期間付で採用した者について、試用期間が満了しようとしていますが、履歴書に記載のなかった懲戒処分歴が分かったり、勤務中のたばこ休憩が多く、他の従業員から不満を申し立てられている者がいます。本採用を拒否することは可能でしょうか。

 

【解説】

「試用期間」の法的性質は、別稿でご説明しましたとおり、解約留保権の付いた雇用契約と考えるのが判例です。

この点で、①と②は、同じく解約留保権のついた雇用契約の解約でありながら、①については、試用期間の途中、②については、試用期間満了後の本採用拒否、という点で内容を異にしています。

まず、この差異があることについてご確認下さい。

 

そして、先に②の試用期間満了後の本採用拒否については、三菱樹脂事件の最高裁判決が、次のように判示しています

 

「いつたん特定企業との間に一定の試用期間を付した雇傭関係に入つた者は、本採用、すなわち当該企業との雇傭関係の継続についての期待の下に、他企業への就職の機会と可能性を放棄したものであることに思いを致すときは、前記留保解約権の行使は、上述した解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合にのみ許されるものと解するのが相当である。換言すれば、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至つた場合において、そのような事実に照らしその者を引き続き当該企業に雇傭しておくのが適当でないと判断することが、上記解約権留保の趣旨、目的に徴して、客観的に相当であると認められる場合には、さきに留保した解約権を行使することができるが、その程度に至らない場合には、これを行使することはできないと解すべきである。」

 

判例も、本採用後の解雇に比べ、試用期間満了後の本採用拒否については、通常の解雇よりも多少広く解約権の行使を認めつつ、やはり本採用拒否が解雇としての性質を持つことに鑑みまして、客観的合理的理由があり、社会通念上相当と認められる場合に限って、本採用の拒否という形での解雇を認めています。

 

①は、試用期間満了時ではなく、その途中に解約権を行使出来るか、という点で、言い換えれば、解約権の行使はどの時点で行うことができるか、という問題に言い換えることも出来ます。

実は、これは②と異なり、労使間では試用期間があるという合意に加え、試用期間中は、当該企業での就労についての、面接時ではわかり得なかった内容の適格性判断の期間が当事者間で3か月(設例を前提)と合意されていることを意味します。

そのため、使用者としても、合意された期間については、従業員教育を適切に実施し、その結果を判断するには3か月必要と認識していることを意味しています。

このような場合において、試用期間中の解約権の行使を認めるためには、就業規則等に試用期間中の解雇があり得ることの規程を設けることが必要です。

例えば、厚労省のモデル就業規則(第3項をご参照下さい)においては、次のように例が示されています。

 

(試用期間)

第6条

労働者として新たに採用した者については、採用した日から○か月間を試用期間とする。

2 前項について、会社が特に認めたときは、使用期間を短縮し、又は設けないことがある。

3 試用期間中に労働者として不適格と認めた者は、解雇することがある。ただし、入社後14日を経過した者については、第51条第2項に定める手続によって行う。

4 試用期間は、勤続年数に通算する。

 

設例のケースで解雇(解約権の行使)が認められるかは、ケースバイケースではありますが、①の程度では、解雇事由としては合理性を欠き、社会通念上も相当と言えないと判断されると考えられます。

また、②のケースについては、懲戒処分歴の虚偽申告という点のみをもっても、企業秩序維持の視点から、本採用拒否が認められるケースが多いと考えられます。

労使の特に解雇権行使の問題は、ケースバイケースの問題が特に多い問題です。個別の案件については、弁護士にご相談下さい。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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