整理解雇の法的リスクと正しい進め方 と無効とされないための実務ポイントを弁護士が解説
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1 はじめに
企業活動では、景気の悪化や売上減少、事業の縮小・撤退などに伴い、やむを得ず人員を削減せざるを得ない場面が生じます。こうした場面で検討される手段が「整理解雇」です。
もっとも、整理解雇は、労働者に落ち度がないにもかかわらず、労働者の生活基盤を企業の都合によって奪う行為であるため、日本においては、厳しく制限されています。すなわち、経営上の理由があるからと自由に行えるものではなく、「整理解雇の四要素」を充足するように適切な手順を踏んで行わなければなりません。
2 整理解雇とは
整理解雇とは、企業の経営上の理由に基づいて行われる人員削減のための解雇を指します。
法律上「整理解雇」という特殊な解雇の方法が定められているわけではなく、あくまでも普通解雇(民法627条)の一種です。したがって、その有効性は、普通解雇と同様、「客観的に合理的な理由」の存在、「社会通念上相当」といえるか否かという解雇権濫用法理により判断されます(労働契約法16条、民法1条3項)。
ただし、前述のとおり、整理解雇は、労働者に落ち度がないにも関わらず、企業の都合によって労働者を解雇するという特殊性があります。そこで、整理解雇が有効か否かの判断は、厳格に判断されます。
つまり、経営難であったからといって、当然に有効になるわけではなく、裁判所は、「本当に人員削減が必要であったか」「他に手は尽くしたか」「手続は適正なものだったか」といったようなことを詳細に審査して、有効性を判断するのです。
3 整理解雇の四要素
⑴ 整理解雇の有効性は、次の四要素が総合的に考慮され判断されます。
① 人員削減の必要性があること
② 企業が解雇回避努力をしたこと
③ 解雇する者の選定が妥当であること
④ 手続が妥当であること
裁判等で整理解雇の有効性が争われた場合、裁判所はこの四要素を総合的に検討して、判断を下す傾向にあります。
一つずつ見ていきましょう。
⑵ 「① 人員削減の必要性があること」
まず、本当に人員削減が必要な状態にあるかが問われます。
この点については、必ずしも倒産の危機にあるとか、赤字が重なっていることまで要求されるわけではなく、経営の合理化や競争力強化のために行う余剰人員の削減についても、それが、企業の合理的な運営上やむをえない措置と言えれば、企業の経営判断を尊重する傾向にあります。
ただし、整理解雇後に多数の新規採用を行ったり、大幅に賃上げがなされるなど、人員削減の必要性と矛盾する行動をとっていると、その必要性がないと見られかねません。
⑶ 「② 企業が解雇回避努力をしたこと」
次に、当該企業が、解雇を回避するために行える措置を十分に尽くしたかどうかが審査されます。
具体的には以下のようなものです。
・広告費、交通費、交際費等の経費削減
・役員報酬の減額や残業規制による人件費削減
・昇給停止や賞与の減額等の人件費削減
・配置転換や出向による余剰人員の整理
・新規採用の停止
・非正規労働者との労働契約解消
・希望退職者の募集
これらの措置がすべて要求されるわけではありませんが、業種や、その企業の具体的な実情に照らして実現可能な措置を十分に尽くしていることが求められます。
経営上危機的な状況にあることを理由として整理解雇を実施する企業が行うべき解雇回避努力と、経営戦略上の余剰人員削減のために整理解雇を実施する企業が行うべき解雇回避努力は、求められる水準が違うことは当然です。
⑷ 「③ 解雇する者の選定が妥当であること」
解雇対象者の選定について、客観的合理的な基準に基づいて公平に選定されていることが要求されます。一定数の人員の整理がやむを得ないとしても、「誰を解雇するか」という観点からも、妥当な判断が求められるのです。
単に閉鎖される事業部門に在籍していたという理由だけで選定された場合には妥当とは言えませんし、特定の人物、属性の労働者を狙い撃ちにした選定が許されないことは言うまでもありません。
以下のような観点から、可能な限り客観的かつ合理的な基準を明示して、人選を行わなければなりません。
・勤務態度
・勤続年数や業績等の貢献度
・扶養家族の有無等労働者の事情
⑸ 「④ 手続が妥当であること」
最後に、整理解雇に至る手続が公正であったか否かが審査されます。
就業規則等に整理解雇の際の手続規定がなかったとしても、企業は労働者や労働組合に対して十分な説明を行い、協議を行うことが必要とされます。
なお、労働組合等との間に解雇協議条項が存在する場合には、労働組合との協議が必須の要件になります。
ただし、労使間で争いがある場合に合意することまでは求められていません。あくまでも、使用者が十分な説明と協議を行ったことが重要です。
4 整理解雇の手順
実際に整理解雇の実施を検討する際、企業は、上記4要素を念頭に、以下のとおり慎重な手順を踏まなければなりません。
⑴ 経営状況の分析、資料の整備
まず、人員整理を必要とする経営状況にあるかどうかを、客観的に把握し、資料として準備をします。
経営上危機的な状況にあることを理由として整理解雇を実施する場合には、財務諸表の具体的分析と検討を含めた財務状況の悪化に関する検討プロセスが必要です。経営戦略上の余剰人員削減のために整理解雇を実施する場合には、当該経営判断の検討プロセスが重要です。
つまり、整理解雇を実施する企業としては、どのような資料をもとに、どのような経営判断をしたのか、ということを説明できる状態にしておかなければなりません。
⑵ 解雇回避策の実施
配置転換や出向、採用の抑制、役員報酬の削減など、企業の実情に応じて実現可能な範囲での解雇回避策を実施します。この段階でよく活用されるのが、希望退職者の募集です。
なお、この点において、「割増退職金の提示」や「解雇予告期間を長期に確保したこと」のみで足りると誤解している方も見受けられます。しかし、これらはあくまでも解雇を前提として「不利益を和らげる措置」であり、これらの事情は整理解雇が有効である方向に働く一事情ではありますが、これのみで解雇回避策が実施されたとは言えないことに注意が必要です。
⑶ 労働者・労働組合への説明・協議
上記の手順を踏んでもなお人員を削減する必要があることを、労働者へ説明し、整理解雇の進め方や解雇対象者の選定方法について協議を行います。
ここでは、労働者の了承を得ることまで要求されるわけではありませんが、企業がおかれた状況や、解雇回避策について説明を尽くし、労働者が理解できる状態に置いておくことが重要です。
この要素については、特に紛争になってからの事後的な手当が困難な部分ですから、企業としては慎重な対応に努めるべきです。
⑷ 人選と解雇対象者の選定
あらかじめ明確に定めた客観的な基準に従い、これに基づいて公正に対象者を選定します。この際、労働者に十分な説明を行ったというために、説明資料を提供したり、取締役会における議事録、内部検討資料等を記録として残しておくことが重要です。少なくともこのような機会を利用して問題社員を解雇するようなことは避けなければなりません。
⑸ 適正な退職手続を踏む
前述のとおり、整理解雇も普通解雇の一種ですから、普通解雇と同様の手続きが求められます。
具体的には、労働基準法は、解雇予告としてすくなくとも30日前に通知することを義務づけています。30日未満の場合には解雇予告手当の支払いが必要です(労働基準法20条)。
5 終わりに
整理解雇は経営上やむを得ない場合に行われる措置ですが、非のない労働者の生活に重大な影響を与えるため、その有効性については高いハードルを乗り越えなければなりません。
裁判例が示す四要素を踏まえて、経営状況の適切な把握、解雇回避策の実施、公平な人選、誠実な説明協議が求められます。
不適切な整理解雇を行った場合、裁判で無効と判断され、多額の賃金を支払わなければならないなど企業に大きな打撃を与えるリスクがあります。したがって、整理解雇を検討する際には、十分な準備を行い、必要に応じて専門家に相談することが望まれます。
6 グロース法律事務所によく相談いただく内容
・経営が立ち行かず整理解雇を検討しているが進め方がわからない
・整理解雇について労働組合との協議がうまく進まない
・整理解雇をした元従業員から解雇が無効であると主張された
整理解雇を行うということは、少なからず経営上の苦境に立たされているということですから、このような紛争への対応が困難であることが多いでしょう。また、平時とは異なって、慎重さを欠いた進め方をしてしまい、大きなリスクを抱えてしまうこともあります。
早期に弁護士へ相談いただければ、裁判等に発展してしまった場合に無効とされるリスクを軽減することができます。

山元幸太郎

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