新型コロナウイルス感染予防を原因とする休業・時短勤務命令と賃金について

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【問い合わせ事例】

新型コロナウイルスに実際に罹患してしまった場合ではなく、感染拡大を防ぐ目的のために、休業又は時短勤務を命令した場合、従業員への給料の支払いは必要かどうか、必要として満額支給が必要であるのかどうか、という問い合わせが増えてきています。

本稿では、休業命令・時短勤務と賃金支払の要否等に関して、現時点で最低限押さえておくべきポイントを解説致します。今回の新型コロナウイルスの感染拡大防止については、まだ感染拡大防止のための医学的知見も確立されておらず、法律の解釈についても、判断が分かれている内容があります。弊所としての現時点での一定の見解は示したいと思いますが、見解の分かれる内容を含むことについてはご留意下さい。


Q:当社は、緊急事態宣言を受け、また社員の安全を考え、緊急事態宣言が発令されている間は、社員に休業を命じることとしました。賃金は支払う必要がありますでしょうか。

休業ではなく、通常8時間勤務のところ、社員の同意も得て、5時間勤務に切り替え、ラッシュ時間帯の出勤をなくすようにしました。賃金は、通常どおり満額支払う必要がありますでしょうか。


【結論・回答】

ほとんどのケースにおいて、100%の賃金支払いか、少なくとも60%以上の賃金支払いが必要と考えます。

【解説】

1 前提として知っておくべき条文

賃金支払義務の有無等を理解するにあたっては、次の3つの条文を押さえておく必要があります。

★(改正民法第536条第2項)

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は、反対給付の履行を拒むことができない。この場合において、債務者は、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」

(旧民法第536条第2項)

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債務者は、反対給付を受ける権利を失わない。この場合において、自己の債務を免れたことによって利益を得たときは、これを債権者に償還しなければならない。」

⇒改正前後の民法の条文を並べていますが、内容は同じです。

債権者、つまり、この場合は、使用者の責めに帰すべき事由によって従業員が働くことが出来ない場合、使用者は給与を全額(100%)支払う必要があるというのが、民法の規定です。

★(労働基準法第26条)

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は休業期間 中当該労働者に、その平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない。」

⇒民法と同じような文言ですが、労働基準法では、使用者の責めに帰すべき事由によって従業員を休業させた場合、平均賃金の60%以上を支払うべきものとされています。

2 すべてが60%以上で良いというのは誤りの可能性がある

従業員に休業を命じた場合、60%以上支払っていれば大丈夫、うちは80%支給しているから問題ないという見解も耳にします。

しかし、これは民法の規定とは異なり、先に見ましたとおり、民法の規定では、使用者の責めに帰すべき事由で休業を命じた場合、100%の支給が求められています。

もっとも、ここから先が今回のような未知のウイルスによる感染症の拡大、緊急事態宣言を前提として解釈が分かれるところですが、労働基準法の場合、支給すべきとされている額が100%ではなく、60%以上であること、労働者保護の要請に基づく規定であることから、「使用者の責めに帰すべき事由」は、民法の「債権者の責めに帰すべき事由」よりは、比較的広く、緩やかに解釈されています。

そのため、緊急事態宣言を受け、従業員の安全も考えてのことであっても、労働基準法の考え方としては、問い合わせの事例では、使用者の責めに帰すべき事由による休業にあたるものと考えられます。

一方、100%の支給を必要とする民法の考え方のもとでは、使用者の責めに帰すべき事由(故意・過失・これと同視できるような事由)は、もう少し厳格に考えられるべきで、使用者には従業員の安全に配慮すべき義務があることも踏まえると、緊急事態宣言が発令されていること、人との接触について大幅な減少が企業対応として求められていること、未知のウイルスを前提としていること、感染拡大がまだ止まっていないことなどを考えると、現時点の考え方としては、問い合わせ事例において、100%の支給が必要との解釈は行き過ぎであると考えます。

3 時短勤務における時短分の賃金の考え方について

ところで、上記を前提として、時短勤務の場合に、例えば、所定労働時間が8時間のところ、5時間にしたのだから、給与の支給額は5/8で良いかといった問い合わせも生じています。

これについては、以下の通達があり、時短勤務においても、1日につき、平均賃金の60/100以上は支給する必要があります。5/8の場合、60%以上を満たすことになりますが、留意が必要です。

★1週のうちある日の所定労働時間がたまたま短く定められていても、その日の休業手当は平均賃金の100分の60に相当する額を支払わなければならない。また、1日の所定労働時間の一部のみ使用者の責に帰すべき事由による休業がなされた場合にも、現実に就労し時間に対して支払われる賃金が平均賃金の100分の60に相当する金額に満たないときには、その差額を支払わなければならない
(昭和27.08.07基収(旧労働省労働基準局長が疑義に応えて発する通達)3445号)。

なお、時短勤務や、在宅勤務に関し、厳密には就業規則の変更が必要なケースがあります。この場合でも、従業員の個別同意をとっていただければ、緊急措置としてやむを得ない範囲の対応と考えられます。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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