企業が対応すべき就活ハラスメントについて弁護士が解説

 

1 はじめに

労働者へのパワーハラスメントやセクシャルハラスメント、マタニティハラスメントは法律によりその防止や対策を企業が講じなければならないことが定められています。

 

しかし、実際にハラスメントの被害を受けているのは入社後の労働者に限らず、就職活動中の学生・求職者やインターンシップ生なども含まれます。当該会社への入社を望んでいるこれらの立場にある人は、より弱い立場にあり、ハラスメントを受けやすい人である側面も持ちます。

 

そこで、企業はこのような就活ハラスメントを防止するための措置を講じることが望ましいとされています。

 

本稿では、就活ハラスメント防止のために企業が行うべき取り組みを解説いたします。

 

2 就活ハラスメントとは

就活ハラスメントとは、就職活動中やインターンシップの学生等に対するセクシャルハラスメントやパワーハラスメントのことをいいます。これらの行為は立場の弱い学生等の尊厳や人格を不当に傷つける行為であり、許されない行為です。特に就活ハラスメントにおけるセクシャルハラスメントは深刻で、時には強制わいせつなどの刑事事件にまで発展することもありますが、そのような事例は防がなくてはなりません。

 

厚生労働省が発行する就活ハラスメント対策リーフレットでは、以下のような事例は就活ハラスメントであるとされています。

 

・就活時の面接において恋人の有無を聞かれる

・オンライン面接時に全身を見せるように要求された

・女子学生に対し、採用の見返りに不適切な関係を迫った

・不適切な関係を断ると「うちの会社には絶対に入社させない」として不採用とした。

・食事やデートにしつこく誘われた

・インターンシップ中の学生に対し、人格を否定するような暴言を吐いた

 

このような就活ハラスメントを行う企業は、当然企業の社会的信用を失い、企業イメージが低下すると共に、就職後の職場でもハラスメントが横行している会社であると学生に認識され入社希望者が減少し良い人材の確保が困難になることや、現に働いている従業員にも働く意欲やモラルの低下により生産性に悪影響が及び、貴重な人材の退職や流出等のリスクを負うことになります。従って、企業が就活ハラスメント防止対策を行うことは必須です。

 

3 企業が行うべき就活ハラスメント対策

パワーハラスメント防止に関する労働施策総合推進法に基づく指針およびセクシャルハラスメント防止に関する男女雇用機会均等法に基づく指針においても、就活ハラスメントを防止することが望ましいと明記されています。

 

これらの指針では、雇用管理上の措置として、職場におけるハラスメントを行ってはならない旨の方針の明確化を行うことが必要とされていますが、就職活動中の学生等に対するハラスメントについても同様の方針を示すことが望ましいとされ、また、就職活動中の学生等から職場におけるハラスメントに類すると考えられる相談があった場合に、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましいとされています。

 

これらの具体例として、前記就活ハラスメント対策リーフレットでは、

 

 ・全従業員(特に採用担当者)に対し、就活ハラスメントを含む、すべてのハラスメントを禁止する方針を明確にする

 ・就活ハラスメントを行った場合には、その行為者を処分する社内規定や規則(懲戒処分等)を設け、周知する

 ・採用担当者を含む従業員にハラスメント防止に関する研修を継続的に実施する

 ・学生と接する際、採用担当者は2名以上とし、面談やオリエンテーションの際は複数名で対応するなどの社内ルールを明確にしておく

 ・学生向けに就活ハラスメント相談窓口を設置し、周知する

 

が挙げられています。すなわち、パワーハラスメントやセクシャルハラスメントにおいて求められる雇用管理上の措置同様の措置を就活ハラスメントでも取ることが求められています。

 

4 就活ハラスメント防止対策事例から取り組む視点

厚生労働省は就活ハラスメント防止対策に積極的に取り組む企業10社の事例を「就活ハラスメント防止対策 企業事例集」として公表しています。当該企業事例集では、実際に10社が取り組まれている就活ハラスメント防止対策が紹介されていますのでぜひ参考にしてください。

 

上記企業事例集では、実際の事例集の分析に基づき各企業が就活ハラスメント防止に向けた具体的取組や導入のヒントが以下のとおり示されています。

① 「公正な採用選考」に基づいた面接実施

公正な採用選考とは厚生労働省が示している採用選考の在り方です。そこでは、採用選考は「応募者の基本的人権を尊重すること」と「応募者の適性・能力に基づいた基準により(採用選考を)行うこと」を基本的な考え方としています。

これらを参考にすると、就活ハラスメント防止のためには、本人に責任のない事項(出生地・家族や生活状況等)に関することや本来自由であるべき事項(宗教、支持政党、人生観、尊敬する人物、思想など)について質問することについて就職差別に該当しかねないことを面接担当者に注意喚起したりすることが考えられます。

また、面接前や面接の合間に行われるアイスブレイク時においてもプライベートに関する質問をしないことなどの研修を行うことも有用です。

 

② リクルーターの行動指針やマニュアルの策定

就活ハラスメントにおけるセクシャルハラスメントは、若手の社員がリクルーターとなるOB・OG訪問や面談時に起こりやすいことがわかっています。

 

そこで、それを防止するためリクルーターの行動指針やマニュアル・ガイドブックを策定している会社が多くあります。

 

行動指針やマニュアルの一例として、

・OBOG面談時に固執利用を不可とし、OBOG面談を受ける際は会社に事前に届け出ることとする

・OBOG面談時に個人のSNSを使用しない

・内定者懇談会で酒席を共にする場合の留意点(質問するべきでない事項や配慮すべき事項)をガイドブックに明記する

というようなものが挙げられます。

 

③ 応募者の個人情報の限定利用

就活ハラスメントがそもそも発生しない状況をつくるため、面接間等に対し、学生等の個人情報を一部非公開にするなどして個人情報が悪用されることを防ぐことも有用です。選考に多少の不便さがあったとしても、就活ハラスメントの芽を摘むことを重要視することに重きを置いています。

 

これらの対策は、実際に行われているものであり有用ですが、すべて行わなければならないものではなく、また、これを行えば十分な対策がなされているというわけでもありません。各企業にあった就活ハラスメント対策を考え、実施していくことが重要です。

 

5 グロース法律事務所のハラスメント防止対策アドバイス

グロース法律事務所では、労務問題における企業側専門の法律事務所として、パワーハラスメント、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメント防止対策の他、就活ハラスメントをはじめとした様々なハラスメント対策に関するアドバイスを行っております。

ハラスメント対策は、ハラスメント防止のための制度構築の他、ハラスメント発生時の事実認定やヒアリングの手法、ハラスメントが認められた場合の措置や処分、ハラスメントの二次被害の防止、ハラスメント再発防止策など広い範囲で行う必要があります。自社のハラスメント防止対策にお悩みの場合は、ぜひグロース法律事務所までご相談ください。

 

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徳田 聖也

徳田 聖也

京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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