ハラスメント窓口の実務~事実関係の調査と評価の方法~

本稿は、社内窓口担当者を念頭に、ハラスメント相談があった場合に、社内で行なうべき調査・評価の方法を解説します。既に社内に窓口が設置されている会社も多くありますが、実際にどのような手順で調査を行ない、処理を進めていくべきであるのか、明確な社内ルール(手順書等)がなかったり、研修が不十分だったりというケースはまだまだ見られます。

本稿は、主にそうした手順について解説するものです。

 

1 事実を確定すること

ハラスメントの相談あり、調査を進めることになった場合、まず思考として、「事実」と「評価」(ハラスメントに当たるかどうか)を分けて考える必要があります。

要するに、どういった具体的「事実」が認められるのか、その認められた事実は例えばパワハラの要件に当てはめたときに、パワハラと「評価」出来るのかを分けて考える必要があります。

 

2 どのような「事実」を認定するのか

一方、なんでもかんでもとりあえず「事実」を洗いざらい認定する訳ではありません。評価にあたり必要な事実の有無を調査し、認定していきます。

例えば、身体的な攻撃によるパワハラの場面であれば、「身体的な攻撃」があったかどうかの認定のための事実の有無として、AがBに殴った事実があったのか、足蹴りした事実があったのかといった「事実」の有無を申立てを行なった相談者の主張を踏まえて調査、認定していくことになります。

 

3 事実を認定するための証拠を集めること

(1) この事実を認定するためには証拠が必要です。

証拠には様々ありますが、映像や画像、メールなどの客観的記録もあれば、目撃証言、当事者の主張も証拠の一つです。

もっとも、この例示を見れば明らかなように証拠には、その証拠があればその事実は間違いなく認定できる、というものから、ほかの証拠と照らし合わせて見なければ分からないといったものまで様々です。

整理できることは、証拠には客観的な証拠から主観的な証拠まであり、一般的には客観的な証拠ほど信用できるということが出来ますし、主観的な証言などの証拠でも、当事者と何ら利害関係のない第三者の証言はどちらかに肩入れする理由がないという点で証言であってもより客観性が高く、信用できる場合が多くなります。

(2) 直接的な証拠から間接的な証拠まで証拠には様々あること

また、証拠というのはそれ自体によって事実を認定できるものもあればそうでないものもあります。例えばAがBを殴っている動画が残されていれば、これはAがBを殴った事実を認定できる直接的な証拠です。

一方、例えば、Bの顔にあざがあり、Aに殴られたと言っている場合には、あざがあるという事実があるからといって、AがBを殴ったかどうかまでは事実として特定できません。

このような間接的な証拠しかないケースは非常に多いですが、事実を認定するためには、間接的な証拠を収集し、それらを合わせて事実を認定していく必要があります。例えば、先ほどの例でも、Aも手にけがをしていた、AがBを殴った場面は見ていないが、その前後にAとBが口論している場面は見たという同僚の証言がある場合であれば、それらを合わせて、Bの主張が事実として認められるというような認定手法をとります。

(3) 集める順番

証拠を集める順番も重要です。

当事者の主張というのは、真実を語る場合もあれば、誇張する場合もあり、虚偽の主張をする場合もあります。相談者の主張を一応の前提にしながら、まずは、客観的な証拠を集めることが重要です。第三者の証言も含めて客観的な証拠を集めた場合には、ある程度事実が見えてくることもありますし、相談者の主張にも実は誇張されたり、勘違いしていたりする内容も見えてくることがあります。

改めて相談者からも主張を確認し、その上で、相手方とされる者からヒアリングを行なうのが手順としては適切と考えます。

 

3 事実を確定し評価すること

以上の経過を経て、「事実」が確定できた場合には、それを踏まえて例えばそれがパワハラにあたるのかどうか、セクハラにあたるのかどうかといった「評価」 をしていくことになります。

典型的に身体的な攻撃を認定できるような、AがBを殴るような事実を確定できれば分かりやすいですが、指で小突いた事実しか認められなかった場合はどうでしょうか。これが評価の場面です。

 

4 担当者向けに

こうした事実関係の調査・認定や評価は裁判実務と同じです。それだけに窓口担当者の能力が必要とされます。

貴社におけるハラスメント体制の整備にあたっては、上記の視点も加味して整備を進めていただきたいと思います。弊所では、社内担当者向けの研修も実施していますので、ご相談いただければと思います。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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