競業避止義務違反への対応策について

1 はじめに

退職後の競業避止義務違反が認められた場合に、その対応としていかなる手段を取りうるのでしょうか。本稿では、対応策として取りうる手段を紹介いたします。実際にこれらの手段を取りうるかは、就業規則の規定、当該労働者との合意の内容、証拠の有無などにより異なりますが、取りうる手段を知っておくことも重要です。

 

2 競業避止義務違反に対する損害賠償請求

競業避止義務があることについて合意がある場合は、当該合意の違反となりますので、合意により負うべき債務を行わなかったことを理由とする、債務不履行に基づく損害賠償が可能です。

また、合意がない場合であっても、競業避止義務の態様によっては不法行為に基づく損害賠償請求を行うことも考えられます。

この場合に、損害賠償を請求できる範囲は、当該競業避止義務違反と相当因果関係のある損害です。例えば、退職者が取引先を奪取したことが認められた場合における、取引が継続していれば得られたと考えられる利益がこれにあたります。

 

3 競業行為の差止めの仮処分

退職後の従業員との間の競業避止義務合意が有効であると認められる場合は、競業行為の差止を請求することができます。しかし、競業行為の差止を請求しても、任意で応じない場合には、裁判手続にて競業行為の差止を求めなければなりません。この場合、裁判は数ヶ月、数年かかることが通常ですので、裁判を行っている間に競業行為が継続することになり、競業行為による自社の損害が拡大するおそれがあります。これは、競業避止義務違反に対する損害賠償請求を行う場合も同様です。

このような損害の拡大を防ぐため、民事保全法に基づく競業行為の差止の仮処分により、裁判による結論が出るまでの、暫定的な措置として競業行為を差止めることを求めることが可能です。仮処分手続は通常の裁判に比べて短期間で結論が出るものであり、迅速に競業行為を止めたい際に効果的です。

また、仮差止めは暫定的な措置ではありますが、これが認められた場合は、相手方は事業継続が困難になることから、以降の競業行為を防止するためにも高い効果が期待できます。

 

4 他社へ就職した退職後従業員への対応

競業行為は、退職者自ら競業事業を行うものの他、同業他社へ就職する態様もあります。競業避止義務の合意は、あくまでも当該労働者との合意であることから、この場合において、同業他社に対し当該従業員の雇用を禁止したり、解雇を要求することは困難です。

そこで、当該同業他社に対し、当該従業員が自社との間で競業避止義務を負っていること及び、競業する範囲の業務に就業させないように求めたり、当該労働者の知る企業情報を利用したりしないように申し入れを行うことが考えられます。当該申し入れを行い、当該従業員の競業避止義務違反を知らせた後も、当該同業他社が何らの措置を取らなかった場合は、損害の拡大について当該従業員と共に、当該同業他社に対し責任追及を行える可能性が生じます。

 

5 最後に

以上、元従業員の競業避止義務違反が認められる場合の対応策をご紹介いたしましたが、これらの対応策を取るためには、当該従業員に対し競業避止義務が認められる必要があります。退職後の従業員に対し競業避止義務を課すためには、退職前に対応を行っておく必要があり、退職後では間に合いません。

従って、従業員の競業避止対策は早めに対応する必要がありますので、問題が生じる前にあらかじめご相談ください。

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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