改正特定商取引法について~2022年6月1日施行対応~

特定商取引法が改正され、インターネット通販の新しい表示ルールが202261日に導入されます。

本稿ではEC事業者向けに改正のポイントを概説致します。

 

1 そもそも特定商取引法(特商法)とは

「特定商取引法」とは、「事業者による違法・悪質な勧誘行為等を防止し、消費者の利益を守ることを目的とする法律」です。

具体的には、消費者トラブルを生じやすい取引類型を対象に、事業者が守るべきルールと、クーリング・オフ等の消費者を守るルール等を定めています。

消費者トラブルを生じやすい取引類型として特商法の対象法とされている取引は具体的には以下の取引です。

訪問販売

事業者が消費者の自宅等に訪問して、商品や権利の販売又は役務の提供を行う契約をする取引

通信販売

事業者が新聞、雑誌、インターネット等で広告し、郵便、電話等の通信手段により申込みを受ける取引

電話勧誘販売

事業者が電話で勧誘を行い、申込みを受ける取引

連鎖販売取引

個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせる形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・役務の取引

特定継続的役務提供

長期・継続的な役務の提供と、これに対する高額の対価を約する取引

業務提供勧誘販売取引

「仕事を提供するので収入が得られる」という口実で消費者を誘引し、仕事に必要であるとして、商品等を売って金銭負担を負わせる取引

訪問購入

事業者が消費者の自宅等を訪問して、物品の購入を行う取引

 

2 特商法のルールの二つの側面

特商法には、①行政規制としてのルールと、②民事ルールとしての側面の二つの側面があります。

(1) 行政規制としてのルール

まず、行政ルールとしては、事業者に対して、消費者への適正な情報提供等の観点から、上記した各取引類型の特性に応じて、以下のような規制を行っています。

これらの規制について違反行為があった場合、

☑業務改善の指示、業務停止命令・業務禁止命令の行政処分

☑一部は罰則

の対象にもなります。

①氏名等の明示の義務付け

事業者に対して、勧誘開始前に事業者名や勧誘目的であることなどを消費者に告げるように義務付けています。

②不当な勧誘行為の禁止

価格・支払条件等についての不実告知(虚偽の説明)又は故意に告知しないことを禁止したり、消費者を威迫して困惑させたりする勧誘行為を禁止しています。

③広告規制

事業者が広告をする際には、重要事項を表示することを義務付け、また、虚偽・誇大な広告を禁止しています。

④書面交付義務

契約締結時等に、重要事項を記載した書面を交付することを事業者に義務付けています。

(2)民事ルール

もう一つの側面として、特商法は、消費者と事業者との間のトラブルを防止し、その救済を容易にするなどの機能を強化するため、消費者による契約の解除(クーリング・オフ)、取消しなどを認め、また、事業者による法外な損害賠償請求を制限するなどのルールを定めています。

①クーリング・オフ

クーリング・オフとは、契約の申込み又は締結の後に、法律で決められた書面を受け取ってから一定の期間内に、無条件で解約することです。一定の期間とは、訪問販売・電話勧誘販売・特定継続的役務提供・訪問購入においては8日以内、連鎖販売取引・業務提供誘引販売取引においては20日以内とされています。なお、通信販売には、クーリング・オフに関する規定はありません。

②意思表示の取消し

特定商取引法は、事業者が不実告知や故意の不告知等を行った結果、消費者が誤認し、契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときには、消費者が、その意思表示を取り消すことができる旨を規定しています。

③損害賠償等の額の制限

特定商取引法は、消費者が中途解約する際等、事業者が請求できる損害賠償額に上限を設定しています。

 

3 改正内容~通信販売に関する規制の新設等

改正のポイントとしては、①通信販売に関する規定の新設、②電磁的記録によるクーリング・オフの導入、③預託等取引に係る抜本的な規制強化(販売預託の原則禁止等)の3つを挙げることが出来ますが、本稿ではEC事業者に感心の高い①について解説致します。

(1)規制の背景

この改正の背景には、詐欺的な定期購入商法の問題がありました。具体的には、

➤ 「初回無料」や「お試し」と表示があるのに実際には定期購入が条件となっていた

➤ 「いつでも解約可能」と表示してあるのに、実際には解約に細かい条件があった

といった類の商法です。

そこで、改正法は、通信販売の申込み段階において 商取引を行う上で通常必要な基本的事項について表示の義務付け、誤認させるような表示の禁止の規定を設けました。

 

(2)改正内容

特商法は、消費者が誤認しないよう、カタログ・チラシなどを利用した通信販売の申込書面や、ECサイトなどインターネットを利用した通信販売をするときの注文確定直前の最終確認画面で、下記6つの条項を明記することを求めています。事業者側がこれら事項について、消費者に誤認を与える表示を行った場合、 誤認して申込みをした消費者は、取消権を行使できる場合があります。

EC事業者においては、最終のカートシステム画面において必ずご対応ください。

 

①分量

商品の数量、役務の提供回 数等のほか、定期購入契約の場合は各回の分量も表示

 

②販売価格・対価

複数商品を購入する顧客に 対しては支払総額も表示し、定期購入契約の場合は 2回目以降の代金も表示

 

③支払の時期・方法

定期購入契約の場合は 各回の請求時期も表示

 

④引渡・提供時期

定期購入契約の場合は 次回分の発送時期等についても表示

 

⑤申込の撤回、解除について

契約の申込みの撤回又は解除に関して、条件、方法、効果等を表示。

返品や解約の連絡方法・連絡先、返品や解約の条件等について、顧客が見つけやすい位置に表示。

 

⑥申込期間(期限のある場合)

季節商品のほか、販売 期間を決めて期間限定 販売を行う場合は、 その申込み期限を明示

 

また、各項目についての留意事項は以下のとおりです。

①分量について

無期限や自動更新である場合にはその旨 の記載も必要です。加えて、無期限の場合には一定期間を区切った分量を目安として表示することが望ましいとされています。

②販売価格・対価について

定期購入契約の場合には、各回の代金+代金の総額の表示が必要です。

また、サブスクリプションの場合には、無償契約から有償契約に自動で移行するような場合には、移行時期と支払うこととなる金額の記載も必要とされています。

さらに、無期限の場合、一定期間を区切った支払額を目安として表示することが望ましいとされています。

⑤申込の撤回、解除について

電話で解約を受け付ける場合には、確実につながる電話番号の記載が必要です。

したがって、最終確認画面に表示された電話番号に消費者から電話をかけても一切つながらないような場合や、窓口担当者に用件を伝えて折り返しの連絡を依頼した後に一向にその連絡がないような場合は、不実のことを表示する行為に該当するおそれがあります。

⑥申込の期間がある場合、その旨・その内容について

「期間限定販売」はこれに該当しますが、一方、期間に該当しない例えば「個数限定販売」「タイムセール」は規制の対象外です。

 

次に、改正特商法では、

□書面の送付や手続に従った情報の送信が 契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示

□第1 2条の6第1項各号に掲げる事項(前記①から⑥)につき、人を誤認させるような表示

を禁止しています。

 

書面の送付や手続に従った情報の送信が 契約の申込みとなることにつき、人を誤認させるような表示としては、例えば有償契約の申込みであることがわかりにくいものです。

また、(前記①から⑥)につき、人を誤認させるような表示を禁止していますが、これは例えば、定期購入契約の場合や解約に条件がある場合において、「お試し」、「トライアル」といった表示がある場合(消費者が試行的な契約と誤認する可能性が高い)、「いつでも解約可能」といった表示がなされている場合です。

 

また、改正特商法では、通信販売に係る契約の申込の撤回・解除を妨げるため、

①申込の撤回・解除に関する事項

②契約の締結を必要とする事情に関する事項

について、不実のことを告げる行為を禁止しています。

①は、例としては、事実に反して「定期購入契約になっているので残りの分の代金を支払わなければ解約はできない」と告げる行為、②は、例としては、事実に反して「その商品は、いま使用を中止すると逆効果になる」と告げる行為が挙げられています。

 

そして、契約した消費者が、違反する表示によって誤認した場合に「取消権」が創設されました。下記のような場合、消費者は契約を取り消せます。

①不実の表示……その表示が事実であると誤認した場合

②表示をしない……表示されていない事項が存在しないと誤認した場合

③申込みに関して誤認させるような表示……書面の送付・情報の送信が申込みとならないと誤認した場合

④表示事項について誤認させるような表示……表示事項(分量、価格等)について誤認した場合

 

4 特商法違反の罰則等

表示に違反があったり、不実の告知があった場合、消費者に取消権があったりするだけでなく、行政処分や罰則の対象になります。さらに、違反行為は適格消費者団体による差止請求の対象にもなります。

罰則については、具体的には以下の内容です。事業の存続に大いに影響することはもちろんですので、くれぐれもご留意ください。

 

違反内容 個人 法人
表示しない

不実の表示

70② 3年以下の懲役又は 300万円以下の罰金

(併科あり)

74Ⅰ② 1億円以下の罰金
誤認させる表示 71Ⅰ④ 100万円以下の罰金 74Ⅰ③ 100万円以下の罰金
不実告知 70① 3年以下の懲役又は 300万円以下の罰金

(併科あり)

74Ⅰ② 1億円以下の罰金

 

弊所では、特商法違反対策や、景表法の表示対策の法律相談も承っておりますので、懸念事項等ある場合には、遠慮なくご相談ください。

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