契約書・就業規則等における包括条項(バスケット条項)について弁護士が解説

 

1 はじめに

契約書の「解除」事由に関する条項や、就業規則における懲戒事由に関する条項において、例えば、

「その他前各号に準ずる事由が生じたとき」

というような規定を目にすることがあるかと思います。

一般には「包括条項」、あるいは(IPOの場面以外においても)「バスケット条項」と呼ばれたりする条項です。

 

2 包括条項を設ける理由

これは、契約書作成時点、あるいは就業規則を作成する時点では想定できないような事情であって、かつ、他の事由との比較衡量からして、解除事由として捉えることが必要かつ相当、あるいは懲戒処分に処することが必要かつ相当である場合が発生し得ることを想定して規定しているものです。

例えば、最近では利用は限られてきたものの、手形取引における不渡りなどは信用不安の一事情であり、契約解除事由の一つに記載することが通常ですが、要するにポイントは、契約を信頼関係をもって継続出来ないほどの「信用不安」が生じたことにあり、不渡りはそれを表す一つの事実に過ぎません。

このような信用不安は、書き出せば切りがありませんが、書き切れるものではありませんので、「その他前各号に準ずる事由」として受け皿を作っておくのです。

あるいは、懲戒事由においても、「素行不良で社内の秩序及び風紀を乱したとき。」といった事由を設けながら「その他前各号に準ずる事由が生じたとき」と規定するのは、要するにポイントは「企業秩序違反」であって、それをすべて網羅して書き切ることが出来ないからです。

 

3 注意点

もっとも、「準ずる事由」という以上、具体的な列記が先になければ「準ずる」かどうかの判断が出来ません。このような包括条項を設ける場合には、必ず複数の具体的な事由を列記しておく必要があります。

 

4 就業規則の最低基準効と包括条項

就業規則に記載されている事項に違反する労働契約を締結した場合、就業規則の基準に達しない労働条件を定める労働契約の部分は無効となり、無効となった部分は就業規則に定める基準によることになります。これを就業規則の最低基準効と呼んでいます。

 

では、例えば、以下のような内容の入社時誓約書を提出してもらったとします。

 

【服務規律等】

私は、下記の服務規律を遵守することを約束し、万が一違反した場合は、その程度に応じ、懲戒の対象となることに同意いたします。

(1) 貴社及び貴社従業員の名誉又は評価を毀損する一切の行為をしません。

(2)  貴社の承諾を得ずに、業務に関連して第三者から贈与、饗応又は一切の利益の提供を受けません。

(3)  私の責めに帰すべき事由によって貴社に損害を与えたとき、直ちに貴社に報告し、一切の損害を賠償します。

(4) 業務上及び業務外において、業務を妨害する一切の行為をせず、第三者がなした業務を妨害する一切の行為を支援しません。

(5) 逮捕、勾留、起訴その他の刑事処分を受けた場合、直ちに貴社に報告します。

(6) 貴社の定めた社内ルール、諸規定を遵守いたします。

 

この場合の会社において、たとえば、この会社の就業規則における「服務規律」や「懲戒事由」において、上記に列記された事由が載っていなかった場合、最低基準効との関係では、この入社時誓約書は効力を有するのでしょうか?

これを包括条項の観点から解説した場合には、仮に例えばこの会社において、就業規則の服務規律中「その他前各号に準ずる事由」とある場合には、その具体例の一つと捉えることは可能かと思います。同様に懲戒事由においても、作成時では書き切れなかった準ずる事由の一つとして捉えることは可能かと思いますので、包括条項があることによって、就業規則に文言としては記載のない上記誓約書における服務規律も効力を持つと考えることが出来ます。

もっとも、仮に上記誓約書の文言において、たとえば「私は、就業規則に定める事由の他、下記の服務規律を遵守」と書いてしまうと、就業規則以上のことを定めた、と理解されるおそれがありますので、包括条項の力によっても、最低基準効をクリアできない可能性が出てきます(内容によります)。

 

5 最後に

契約書・就業規則の文言一つ一つには大切な意味があります。包括条項については本稿の視点もご参考にいただければと思います。

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。

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