物流「2024年問題」と荷主の買いたたき~下請法改正への動き~

 

いわゆる物流「2024年問題」を受け、公正取引委員会が下請法改正に踏み切る旨の報道がありました。

荷主と運送事業者の取引は、現在、独占禁止法によって規制対象とされているものの、下請法については対象外の状況であり、同法を適用できるようにする動きです。

報道では『荷主と運送事業者では、仕事を発注する荷主の立場が強いことが多いものの、下請法では明確な下請け関係にないとされている。例えば、消費者が家電を買う場合、荷主となる家電量販店は運送事業者を手配して消費者の自宅に有料で商品を配送するが、下請法では、荷主は消費者と運送事業者の取引を「仲介」しているだけで、下請け関係とはみなされない。』との紹介がされています(2024/05/22読売オンラインより引用)。

 

 

運送業においては、現下の労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト上昇分の協議を経ない取引価格の据置き等が疑われる事案が多数報告されており、運送事業者がコスト上昇分を取引価格に転嫁しやすくする狙いとしての動きになります。

 

ところで、独占禁止法がありながら、なぜ下請法改正が必要かという点ですが、

独占禁止法における優越的地位の濫用は、①優越的地位、②濫用行為、③正常な商慣習に照らして不当という3つの要素から判断されます。このうち、①の優越的地位の意味については、法律上は「自己の地位が相手方に優越していること」とだけ書かれており、これ以上の具体的な定義が置かれていません。

ガイドラインは存するものの、優越的地位の認定自体大きな争点となってきます。

一方、下請法では、資本金要件だけで親事業者と下請事業者を定型的に定義し、これによって定型的な優越的地位の有無を認めています。

 

また、濫用行為についても、下請法においては、下請法において禁止行為を具体的に特定しています。また、親事業者には下請事業者に対しての発注書面の交付義務等もあるため、書面による事実確認も容易で、評価を交えないより迅速な規制が可能となっているのです。

物流業界においては、従前より、公正取引委員会が、荷主と物流事業者の取引における優越的地位の濫用を効果的に規制するため「特定荷主が物品の運送又は保管を委託する場合の特定の不公正な取引方法」(物流特殊指定)を指定していました。

これによって、独占禁止法において、次の様な区分に該当する荷主と運送事業者間の取引について規制を行ってきましたが、荷主・物流事業者の関係が上記資本金要件から外れる場合、優越的地位の有無によって規制の枠をはめる必要が生じていましたし、独禁法上の措置を講じるまでには、相当の時間を要する実情があるため、今般の改正の動きは、物流業界において、迅速かつ効果的な規制を行うための動きといえるのです。

参考までに、物流特殊指定に違反するおそれのあるケースとして、公正取引委員会が公表している例として、次のような例が公表されていますので、ご参考にいただければと思います。

 

【問題につながるおそれのある主な事例】

(公正取引委員会・物流特殊指定の考え方についての相談より引用。上記図も同じ)

荷主と物流事業者との取引に関する調査において見受けられた主な事例は、以下のとおり(括弧内は荷主の業種)。

(1)買いたたき

・荷主は、令和元年頃以降、運賃について、物流事業者から引上げの要請がなかったことから、労務費、原材料価格、エネルギーコスト等のコスト上昇分の反映の必要性について、価格交渉の場において明示的に協議することなく据え置いていた。(その他の製造業)

・荷主は、物流事業者との運賃値上げ交渉に応じず、30年ほど前に定めた運賃表に基づく内容で毎年契約更新をして運賃を据え置いていた。(窯業・土石製品製造業)

・荷主は、大型トラックでなければ積載困難な量の貨物の運送を委託したにもかかわらず、中型トラックの運賃を一方的に適用した。(飲食料品卸売業)

・荷主は、農産物の運送を委託するに際し、物流事業者がコスト上昇分について運賃の引上げを求めたにもかかわらず、自己の予算を理由に、協議することなく一方的に運賃を据え置いた。(協同組合)

 

(2)代金の支払遅延

・荷主は、担当者が事務処理を失念し、あらかじめ定めた期日に運賃の支払ができなかったため、物流事業者に請求日を遅らせた請求書を再作成させた上、1か月遅れで支払った。(各種商品卸売業)

・荷主は、自社の計算ミスを原因として支払を翌月に遅らせた。(飲食料品卸売業)

(3)代金の減額

・荷主は、物流事業者に定期的に運送を委託している配送先における自社商品売上げの低迷を理由に、一方的に運賃を減額した。(食料品製造業)

・荷主は、物流事業者に対し、運賃のうち1万円未満の端数を切り捨てて支払った。(総合工事業)

 (4)不当な給付内容の変更及びやり直し

・荷主は、前日に発注した運送を当日にキャンセルしたが、物流事業者において既に発生した費用を負担しなかった。(印刷・同関連業)

・荷主は、翌朝の運送に備えて、前日夕方に物流事業者に集荷に来させているにもかかわらず、積み込む荷物の用意を終えておらず、数時間に及ぶ待機を余儀なくさせているが、当該待機時間に関する支払を行っていなかった。(物品賃貸業)

(5)不当な経済上の利益の提供要請

・荷主は、物流事業者に対し、物流業務に附帯して輸入通関業務を委託するに際して、物流事業者に支払う手数料に比して極めて大きい額の関税及び消費税を立て替えさせた。(生産用機械器具製造業)(参考参照)

・荷主は、物流事業者に対し、積荷の缶製品を手作業で大型トラックに積み込ませているが、それに対する作業料金を支払っていなかった。(化学工業)

(6)割引困難な手形の交付

・荷主は、物流事業者に対し、運賃の大半を手形期間150日の約束手形で支払った。(窯業・土石製品製造業)

(7)物の購入強制・役務の利用強制

・荷主は、物流事業者に対し、発注担当者を通じて電話や訪問により繰り返し生鮮食品の購入を要請し、当該生鮮食品を購入させた。(協同組合)

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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