名誉毀損と損害賠償について弁護士が解説

 

1 はじめに

昨今、SNSによる投稿、出版等によって名誉が毀損されたとして、損害賠償請求をする事案が多くメディア上でも取り上げられています。

民法における名誉毀損を理由とする損害賠償請求については、最高裁においては、刑法と異なった独自の法理を築いておりますので、本稿では、刑法の名誉毀損ではなく、不法行為としての名誉毀損行為について、主にその要件面を概説いたします。

 

2 民法の規定

民法の規定における、名誉毀損に関する規定は以下のとおりです。損害賠償請求については、民法709条・710条が根拠となり、謝罪広告や、差止めについては民法723条が根拠条文となります(差止めについては人格権侵害を理由とする主張が多く、723条を利用しない場合も多くあります)。

 

709

故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

710

他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

723

他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる

 

3 民法709条の要件

 (1) 刑法

刑法では、230条第1項において、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀き損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処する」との名誉毀損罪が定められいます。

刑法では、この条文のとおり、「事実」の摘示がある場合にのみ、名誉毀損罪が成立します。したがいまして、例えば、「アホ」「ボケ」といった事実摘示のない場合においては、侮辱罪は問題となりますが、名誉毀損罪は成立いたしません。

 (2) 民法

民法では、刑法のような定められ方がされておらず、権利・利益を侵害する行為は、必ずしも、法律上「事実」の摘示に限られていません。この点は、最高裁においても、事実の摘示に限られないことは判示されており、具体的には事実の摘示に限らず、「意見・論評」についても、それによって他人の社会的評価を低下させた場合には、不法行為としての名誉毀損にあたり得ることになります。

 

何が事実で何が「意見・論評」かは、線引きが難しいところですが、最高裁においては、「当該表現が証拠等をもってその存否を決することが可能な他人に関する特定の事項を明示的又は黙示的に主張するものと理解されるときは、当該表現は、上記特定の事項についての事実を摘示するものと解するのが相当である(最判平成999日参照)。そして、上記のような証拠等による証明になじまない物事の価値、善悪、優劣についての批評や論議などは、意見ないし論評の表明に属するというべきである。」(最判平成16715日)との判断が示されています。

 

 (3) 違法性阻却・故意過失がない場合

仮に当該事実の摘示等によって、他人の社会的評価を低下させたとしても、違法性がないとされたり、故意過失がないと判断される場合があります。名誉毀損の民事裁判では、この例外が認められるかどうか、という点が大抵の場合に争点となります。

具体的には、以下の場合には、不法行為となりません。

(事実の摘示の場合。最判昭和41年6月23日等)

① 事実の公共性

② 目的の公益性

③ 摘示された事実が重要な部分において真実であること(真実性)又は摘示された事実の重要な部分を真実と信ずることについて相当の理由があること(真実相当性・誤信相当性)

(意見・論評の場合。最判平成16715日等)

① 公共性

② 目的の公益性

③ 意見ないし論評の前提となる事実が重要な部分において真実であること(前提事実の真実性)又は意見ないし論評の前提となる事実が重要な部分について真実であると誤信して、そう信じたことについて確実な資料、根拠に照らして相当の理由があること(前提事実の真実相当性・誤信相当性)

④ 人身攻撃に及ぶなど意見ないし論評としての域を逸脱したものでないこと

 

 

意見・論評は例えば「○○さんがあの会社を駄目にした影の支配者」といったような類の表現ですが、この意見・論評については、意見・論評自体の合意性は通常問われておらず、あくまで、その前提となる事実についての真実相当性・誤信相当性が問題とされています。その点で表現の自由との調整を図っているとも言われており、事実の摘示(例えば、○○さんはAさんの意に反して▼▼を行なった)の場合よりも、請求を受ける側の反証のハードルを下げているとも評価出来ます(もっとも、実際には前記のとおり線引きは難しく、実際の訴訟における立証責任の緩和の程度はケースバイケースです)。

4 最後に

以上は法律上の要件についての概説ですが、名誉毀損については、仮に損害賠償請求が認められ、あるいは謝罪広告が認められたとしても、実際にその被害が回復されるのか(判決は数年後、その頃には世間は見向きもしていない)という問題もあります。

当該事案の解決のために、最善の解決策はなにか、初動からの慎重な検討が重要です。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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