理不尽なクレームやカスハラ対応について弁護士が解説

1 はじめに

本稿では、「カスタマーハラスメント」のうち、事業主として雇用管理上講ずべき措置を中心に概説致します。

「カスタマーハラスメント」と一口に言っても、どの場面で用いるかによって、検討すべき内容は異なります。

大きくわければ、

①加害者に対する刑事責任(脅迫罪、不退去罪等)の追及

②加害者に対する民事責任(不法行為に基づく損害賠償責任)の追及

③労災補償(業務起因性等)

④被害者の企業に対する民事責任(安全配慮義務違反)の追及

⑤パワーハラスメント防止に関する指針に基づき、事業主が雇用管理上講ずべき措置

といった分類が可能です。

 

各場面において、要件が異なり、全体として「カスタマーハラスメント」を定義することは困難ですし、また場面毎に論じなければ正確な検討が出来ません。

本稿では、主には④⑤を念頭に解説を行なうものです。

 

 

2 カスタマーハラスメントに関して事業主が講ずべき措置

令和元年6月に、労働施策総合推進法等が改正され、職場におけるパワーハラスメント防止のために雇用管理上必要な措置を講じることが事業主の義務となりました。

 

 

この改正を踏まえ、令和2年1月に、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」(令和2年厚生労働省告示第5号)が策定されていますが、この中で、顧客等からの暴行、脅迫、ひどい暴言、不当な要求等の著しい迷惑行為(カスタマーハラスメント)に関して、事業主は、相談に応じ、適切に対応するための体制の整備や被害者への配慮の取組を行うことが望ましい旨、また、被害を防止するための取組を行うことが有効である旨が定められています。

 

具体的には、以下のような取り組みを行なうことが望ましいとされています。

 

(1) 相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備

(2) 被害者への配慮のための取組(被害者のメンタルヘルス不調への相談対応、著しい迷惑行為を行った者に対する対応が必要な場合に1人で対応させない等の取組)

(3) 他の事業主が雇用する労働者等からのパワーハラスメントや顧客等からの著しい迷惑行為による被害を防止するための取組 (マニュアルの作成や研修の実施等、業種・業態等の状況に応じた取組)

 

3 「カスタマーハラスメント」とは何か

本稿との関係では、「顧客等からのクレーム・言動のうち、 当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」と捉え、各企業において取り組みを行なうことが適切と考えます。

厚労省委託事業・カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会作成のカスタマーハラスメント対策リーフレットによれば、次のような例が列挙されています。

 

「顧客等の要求の内容が妥当性を欠く場合」 の例

・企業の提供する商品・サービスに瑕疵・過失が認められない場合

・要求の内容が、 企業の提供する商品・サービスの内容とは関係がない場合

「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例

(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)

・身体的な攻撃 ( 暴行、傷害)SS

・精神的な攻撃 (脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)

・土下座の要求

・継続的(繰り返し)、執拗(しつこい) な言動

・拘束的 (不退去、居座り、 監禁) な行動

・性的な言動等

(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)

・商品交換の要求

・金銭補償の要求 等

 

4 安全配慮義務との関係

使用者は労働者に対して、雇用契約上の安全配慮義務を負っています。安全配慮義務の内容は様々ですが、本稿との関係では、「3」で述べたようなカスタマーハラスメントに対して、例えば、窓口となった労働者からの申し出にもかかわらず、当該労働者のみの対応に任せ、使用者として対策を放置した結果、労働者にうつ病が発症したというような例では、使用者の安全配慮義務違反による損害賠償請求が認められる可能性が高いと言えます。

何をどこまでしていれば、使用者として安全配慮義務を尽くしたと言えるかは、ケースバイケースではあるものの、例えば、

①カスタマーハラスメントを含む苦情相談に対する対策マニュアルの策定と周知・研修

②担当従業員の相談窓口と上長までの相談・対応ラインの確立

などは、平時の体制として重要と考えます。

また、社内で対応仕切れない案件については、②の上長への報告や検討の後、弁護士に対応を委ねるが適切です。

 

5 カスタマーハラスメントを防ぐ体制構築

カスタマーハラスメント案件では、加害者が初動対応時の担当従業員の言葉尻を捉え、あるいは謝罪が不十分、通報するといった具合で、また、要求を増大させていくようなケースが多くみられます。

その点でも、初動からの対応マニュアルは重要であり、カスタマーハラスメントに至らせない結果を得ることも出来ます。

とりわけカスタマーハラスメントで重要なことは、

 ①当初受付時の対応

②時系列も含めた正確な事実関係の確認

 ③加害者及び担当者の発言の正確な記録

 ④担当部署や、場合によっては弁護士も含めた協議を踏まえての、対応策の決定とその伝え方・伝える時期

にあると考えますが、先ほどのカスタマーハラスメント対策リーフレットにも記載のあるとおり、①については、対象を明確にした上で限定的に謝罪することも有用な対応の一つです(「この度は不快な思いをさせてしまい、誠に申し訳ありません」等)。

したがって、トークスクリプトも含めた事前マニュアルを策定しておくことが重要です。

 

弊所では、トークスクリプトを含めた対応マニュアルの策定や研修等の相談もお受けしていますので、ご参考にいただければと思います。

 

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谷川安德

谷川安德

谷川安德 大阪府出身。立命館大学大学院法学研究科博士前期課程(民事法専攻)修了。契約審査、労務管理、各種取引の法的リスクの審査等予防法務としての企業法務を中心に業務を行う。分野としては、使用者側の労使案件や、ディベロッパー・工務店側の建築事件、下請取引、事業再生・M&A案件等を多く取り扱う。明確な理由をもって経営者の背中を押すアドバイスを行うことを心掛けるとともに、紛争解決にあたっては、感情的な面も含めた紛争の根源を共有すること、そこにたどり着く過程の努力を惜しまないことをモットーとする。
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