フレックスタイムの導入について弁護士が解説

 

1 はじめに

フレックスタイム制は、労働者が日々の始業時刻・終業時刻や労働時間を自ら決めることにより、ワークライフバランスの調和を図りながら効率的に働くことができる制度です。

 

多様な働き方を選択できる社会の実現に向け、積極的に制度を導入する企業も増えています。本稿ではフレックスタイム制の概要と制度導入にあたっての注意点を厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署発行の「フレックスタイム制の分かりやすい解説&導入の手引き」に準じて解説いたします。

 

2 フレックスタイム制とは

(1) どのような制度か

フレックスタイム制とは、一定の期間について、あらかじめ定めた総労働時間の範囲内で、労働者が日々の始業・終業時刻、労働時間を自ら決めることのできる制度です。

 

これにより労働者は日々の都合に合わせてプライベートと仕事の時間配分の自由度が増し、ワークライフバランスが取りやすくなると共に労働効率の上昇も期待できます。

 

例えば、共働きで子育てする夫婦の場合、夫婦ともにフレックスタイム制を活用して保育園の送り迎えを日替わりで担当したり、資格取得を目指す人が社会人大学に通学するために週3日は終業時刻を早め、その分残り週2日は終業時刻を遅くしたりすることなどが想定されています。また、通勤ラッシュを避けるために利用することなども提唱されています。

(2) フレックスタイム制導入のポイント

フレックスタイム制の導入には上記のようなメリットがあり、積極的に取り入れる企業も増えていますが、下記に述べるとおり導入の要件があり就業規則への記載(変更)や労働者との労使協定が必要となります。

 

また、フレックスタイム制のもとでは時間外労働に関する取扱いは通常とは異なるほか、清算期間における総労働時間と労働時間との過不足に応じた賃金の支払が必要となります。

 

これらの導入要件やポイントを理解しないまま導入した場合、時間外割増賃金の支払を始めとした賃金の支払を誤ったり、労働者間で不公平が生じたりし、労使間の紛争や労働効率の低下を招きかねません。労働者のワークライフバランスや労働効率上昇のための制度導入がまったく逆効果になってしまっては意味がありません。従って、これらのポイントを正確に把握する必要があります。

(3) フレックスタイム制導入の要件

フレックスタイム制導入の要件は①就業規則への規定と②労使協定で「対象となる労働者の範囲」「清算期間」「清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)」「標準となる1日の労働時間」「コアタイムを設ける場合はコアタイム」「フレキシブルタイムを設ける場合はフレキシブルタイム」を定めることです。また、清算期間が1ヶ月を超える場合には、労使協定を所轄労働監督署に届出なければなりません。

 

これら導入の要件については、下記に解説します。

(4) 時間外労働に関する取扱い

フレックスタイム制を導入した場合、労働者が日々の労働時間を決定し、1日8時間を超えることや週40時間を超える選択をすることもありえます。従って、1日8時間ん・週40時間という法定労働時間を超えて労働してもただちに時間外労働となるわけではありません。また、1日の標準の労働時間に達しない時間もただちに欠勤となるわけではないことに注意が必要です。

 

フレックスタイム制を導入した場合、清算期間における実際の労働時間のうち、清算期間における法定労働時間の総枠を超えた時間数が時間外労働となります。精算期間における法定労働時間の総

 

枠は

 

 1週間の法定労働時間(原則40時間)×清算期間の歴日数÷7日

 

にて計算されますが、歴日数が31日の場合は177.1時間、30日の場合は171.4時間、29日の場合は165.7時間、28日の場合は160.0時間となります。

 

(5) 清算期間における総労働時間と実労働時間との過不足に応じた賃金の支払

フレックスタイム制を導入した場合、清算期間における総労働時間と実際の労働時間との過不足に応じて賃金の清算を行う必要があります。

 

すなわち、事前に定められた清算期間における総労働時間よりも清算期間における総労働時間の合計が多い場合は超過した時間分の賃金を支払う必要があります。

 

一方、清算期間における実労働時間の合計が、事前に定められた清算期間による総労働時間よりも少ない場合は、①不足時間分の賃金を控除して支払うか②不足時間を繰り越して、次の清算期間の総労働時間に合算することで対応することが可能です。ただし、この合算後の時間は法定労働時間の総枠の範囲内であることが必要であることに注意が必要です。

 

以上より、フレックスタイム制を導入した場合、始業時刻・終業時刻の決定は労働者に委ねますが、使用者は各労働者の実労働時間の把握を行う必要があり、適切な労働時間管理や賃金清算を行う必要があることに注意が必要です。

 

3 フレックスタイム制を導入する場合の就業規則と労使協定事項

(1) 就業規則

フレックスタイム制を導入するにあたっては、就業規則等に、始業時刻・終業時刻を労働者の決定に委ねることを定める必要があります。従って、フレックスタイム制を導入する際には就業規則の変更が必要です。

(2) 労使協定事項

フレックスタイム制導入にあたり労使間で協定すべき事項は以下のとおりです。

① 対象となる労働者の範囲

対象となる労働者の範囲は個人単位でもグループ(所属課)単位でも構わず、当然全社員と対象とすることも可能です。

② 清算期間

清算期間とは、労働者が労働すべき時間を定める期間のことであり、上限は3ヶ月です。清算期間の決定については、清算期間の長さの他、起算日も定める必要があります。また、清算期間が1ヶ月を超える場合、使用者は1ヶ月ごとに実際に働いた労働時間を労働者に通知するよう努めることが示されています。

③ 清算期間における総労働時間(清算期間における所定労働時間)

これは労働者が清算期間において労働すべき時間として定められた時間とされており、すなわち清算期間における所定労働時間のことをいいます。清算期間中の実労働時間がこの清算期間ごとに定められる所定労働時間を超えた場合に時間外労働となり、また実労働時間が所定労働時間に満たない場合には欠勤となることは前述のとおりです。

 

この清算期間における総労働時間は法定労働時間の総枠の範囲内である必要があり、その計算は前記2(4)に記載した1週間の法定労働時間(原則40時間)×清算期間の歴日数÷7日となります。

 

3ヶ月単位の場合を例にとると、清算期間の日数が92日の場合は525.7時間、91日の場合は520.0時間、90日の場合は514.2時間、89日の場合は508.5時間が上限の総枠となります。

④ 標準となる1日の労働時間

これは年次有給休暇を取得した際に支払われる賃金の算定基礎となる労働時間の長さを定めるものです。フレックスタイム制の対象労働者が年次有給休暇を1日取得した場合はその日について標準となる1日の労働時間を労働したものとして取り扱う必要があります。

⑤ コアタイムを設けるときはコアタイム時間帯の開始終了時刻

コアタイムとは労働者が1日のうちで必ず働かなければならない時間帯であり、これを設けるか否かは任意です。これを設ける際にはその時間帯の開始と終了の時刻を定めなければなりません。

 

コアタイムは設ける日と設けない日を設定したり、日によって時間帯を異なることにしたりすることも可能です。

⑥ フレキシブルタイムを設けるときはフレキシブルタイム時間帯の開始終了時刻

フレキシブルタイムとは、労働者が自らの選択によって労働時間を決定することができる時間帯のことです。コアタイムと同様に任意で定めることができますが、設ける際には開始時刻と終了時刻を定める必要があります。

(3) 届出

清算期間が1ヶ月以内の場合は、労使協定について所轄の労基監督署長に届け出る必要はありませんが、1ヶ月を超える場合には届出を行う必要があり、違反には30万円以下の罰金が科せられる場合があります。

 

4 フレックスタイム制における時間外労働

(1) 清算期間が1ヶ月以内の場合

清算期間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間が時間外労働としてカウントされます。従って、1日単位や週単位にて時間外労働が判断されるものではありません。

(2) 清算期間が1ヶ月を超える場合

清算期間が1ヶ月を超える場には、まず1ヶ月ごとに週平均50時間を超えた労働時間について時間外労働をカウントし、次に(1)と同様に生産時間を通じて法定労働時間の総枠を超えて労働した時間(ただし、週平均50時間を超えた労働時間としてカウントした時間を除く)が時間外労働としてカウントされます。

 

5 最後に

フレックスタイム制の導入は労働者が働きやすい労働環境を作るため、働き方改革の一環として有用な制度です。しかし、その導入には要件が定められ、また法律に定められた運用を怠れば労使間の紛争のもととなりかねません。

グロース法律事務所では各企業に合わせたフレックスタイム制の導入に関するアドバイスも行っておりますので、フレックスタイム制の導入を検討されておられましたらお問い合わせください。

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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