懲戒処分としての減給

 

1 はじめに

「従業員が不祥事を起こしたので、懲戒処分として1ヶ月分の給料を減給したいのですが、よいでしょうか」というようなご相談をいただくことが多くあります。この場合、結論から言うと、懲戒処分として1ヶ月分の給与を減給することは許されません。

 

労働基準法第91条で「就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。」と定められており、これを超える減給は無効となります。

 

2 一回の額が平均賃金の一日分の半額を超えないこと

上記労基法91条の「1回の額が」とは、懲戒処分の対象となる1回の事案に対して減給の総額が平均賃金の1日分の半額以内でなければなないという意味です。

 

1回の事案について、平均賃金の1日分の半額を何回にもわたって減給することはできません。ただし、平均賃金の1日分の半額の範囲内であれば1回の事案について数ヶ月にわたって減給を行うことは可能ですが、懲戒処分として現実的ではないように思われます。

 

また、ここでいう「平均賃金」とは、原則として直前3ヶ月に支払われた賃金の総額をその期間の総日数で除したものを指します(労働基準法第12条)

 

3 総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えないこと

これは、一賃金支払時期に発生したいくつかの事案に対する減給の総額が当該賃金支払期における賃金の総額の10分の1以内でなければならないという意味です。複数の事案で複数の懲戒処分(減給)を行う場合でも、一つの給料日においては、その総額が当該給料の10分の1以内でなければならないという趣旨です。なお、この10分の1以内は当該賃金支払日に支払われる給料のことを指し、「平均賃金」ではありません。

 

なお、当該減給は賞与から行うことも可能であり、その場合は、賞与額の10分の1以内であれば足りることになります。

 

ただし、上記2のとおり、1回の事案に対する減給の上限は平均賃金の一日分の半額を超えないことが必要なため、賞与の時期に合わせたとしても1回あたりの減給額が増えるわけではないことに注意が必要です。

 

4 懲戒処分が有効であることが必要

懲戒処分による減給は、当然懲戒処分が有効であることが必要です。すなわち、懲戒処分は就業規則等によりあらかじめ懲戒の種類、内容、懲戒事由が定められていることが必要であり、そもそも就業規則に懲戒処分が定められていない場合は懲戒処分による減給は行うことができません。

 

また、懲戒処分については客観的に合理的な理由と社会的相当性が求められますので、これらを検討したうえで減給の懲戒処分を行う必要があります。

 

5 人事考査に基づく降格等に伴う減給は労基法91条の範囲外

懲戒処分による減給は上述のとおり、労基法91条の適用を受けますが、従業員の非違行為を原因として、人事考査を行い降格等の処分に伴い基本給や手当などが減額されることについては労基法91条の適用を受けず、会社の比較的広い裁量が認められます。

 

ただし、当然降格の実態が必要であり、形式上降格としておきながら業務内容や責任、権限に変化がない場合には、当該降格は実態のないものとして減給が認められない場合もありますので注意が必要です。

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徳田 聖也

徳田 聖也

德田聖也 京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。
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