就業規則の実質的周知とは?企業が抑えるべきポイントと注意点

 

1 はじめに

就業規則は、労働者の労働条件や労働者が遵守すべき職場規律などについて使用者が定める規則の総称ですが、適切に「周知」されていなければ効力を持たなかったり、罰金を科せられたりする可能性があります。

本記事では、法律上規定された就業規則の「周知」の意味と、企業がとるべき対応について解説します。

(※なお、就業規則の作成義務や記載すべき内容については、弊所別稿「就業規則のリーガルチェック」をご参照ください。)

 

2 労基法106条の「周知」=手続きとしての周知義務

労働基準法は、就業規則の作成手続について、意見聴取義務(労基法90条1項)・届出義務(同法89条、90条2項)と並んで、以下のいずれかの方法により労働者に「周知」することを義務付けています(同法106条1項、労働基準法施行規則52条の2)。

 

① 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること

② 書面を労働者に配布すること

③ 磁気テープ・磁気ディスク等に記録し、かつ、各作業場に労働者がその記録の内容を常時確認できる機器を設置すること

 

このいずれかの方法を履践しなければ、(後述する実質的周知を行っていたとしても、)法定の就業規則周知義務に違反していることになり、是正勧告のほか、30万円以下の罰金が科せられる可能性があります(労基法120条1項)。

 

なお、いずれかの方法によればよいので、就業規則を書面化して掲示(①)・交付(②)をしなくとも、就業規則の内容を電子データ化し、これを確認することができるPCモニター等を各作業場に設置し、かつ、労働者にその操作方法を周知させたうえで閲覧権限を付与することによって、労働者が確認したいときに容易に当該記録を確認できるようにしていれば、電子データによる周知方法(③)によって企業は手続としての周知義務を果たしたことになります。

 

3 労働契約法7条・10条の「周知」(効力発生要件―実質的周知)

⑴ 就業規則に定められた労働条件が労働契約の内容として効力をもつために

・内容が合理的であること

・労働者に周知させていたこと

が必要です(労働契約法7条)。

 

また、就業規則の変更によって労働条件の不利益変更を行う場合には、原則として個々の労働者の「合意」が必要となりますが(同法9条)、上記と同様に内容の合理性及び労働者への周知という要件を満たす場合には、個々の労働者の合意を得ないままに就業規則変更による契約内容の変更の効力が認められます(同法10条)。

 

⑵ 労基法の「周知」との違い

前述のとおり、労基法106条は、使用者の就業規則周知義務として、形式的な3つの方法を規定しています。

一方、就業規則による効力発生効について定めた労契法上の「周知」は、実質的に見て労働者が就業規則の内容を認識できる状態にしておけば足り、その労働者が実際に就業規則の内容を認識していたか、その内容を理解していたかどうかは結論に影響しません。

つまり、労基法106条1項が法定する形式による周知がなされていなかった場合(作業場以外への掲示など)においても、労働者が就業規則の内容を知ろうと思えば知り得る状況にあったといえれば、就業規則の内容の不利益変更に必要な「周知」したことになります。

 

⑶ 実質的「周知」と認められる周知方法

就業規則の実質的周知については、以下のような裁判例があります(なお以下の裁判例は筆者が要約したものです)。

ア 実質的周知を肯定した裁判例

・ 「就業規則が記載された冊子が、各事業場の労働者が自由に閲覧することができる状態で備え置かれていた場合には、その適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続がとられていたということができる」(日本郵便事件・最決平成30・9・14)

・ 「各課の部門長に就業規則のコピーを保管させるとともに、事務室に就業規則の原本を備え置いており、さらに、労働基準法と就業規則に関する説明会を開催し、就業規則の内容について説明したうえで、就業規則の保管状況や、部門長に問い合わせればいつでも就業規則をみることができること、原本を保管している事務室は出入り自由であることを説明していた」(房南産業事件・横浜地判平成23・10・20)

・ 「就業規則を、職員室の副校長の机後ろに設置され共有スペースとして使用されていた棚に備え置いており、職員であれば誰もが自由に就業規則のファイルを取って見ることができる状態にあった」(大谷学園事件・横浜地判平成23・7・26)

・ 「当該従業員が就業規則を確認したのは本件解雇後であるが、他方で、当時当該従業員の席と同じ階にあって、従業員が自由に出入りする経理室の机上ボックスに『就業規則』というラベル付きで就業規則の写しが常置されていたから、会社は就業規則を常時各作業場の見やすい場所に備え付けており、実質的に見て事業場の労働者に対して就業規則の内容を何時でも知り得る状態に置いていたものといえる」(メッセ事件判決・東京地判平成22・11・10)

・ 「就業規則はファイルに入れて支店の書棚に置いており、書棚に鍵はかかっていなかったため、従業員はいつでも見ることができた。また、同ファイルに勤怠関連の申請用紙も入っており、従業員はそこから用紙をとっていたことから、当該ファイルの存在をよく知っており、ファイルに就業規則があることも十分に認識していた」(日音事件・東京地判平成18・1・25)

 イ 実質的周知を否定した裁判例

・ 「(本店にしか備え付けず、事業場たる各店舗には備え付けられていないケースにおいて)『労働者がいつでも本社内で閲覧ができ、要請があれば各店舗に郵送できる状態にあることを確認しました』という承諾書に署名押印させていたものの、当該承諾書には、各店舗の店長や従業員に対してどのように周知するのか何ら記載されておらず、また、周知することを義務付けたり、約束したりする旨の記載もない」(PMKメディカルラボほか1社事件・東京地判平成30・4・18)

・ 「会社に就業規則が存在することを認識させていたにとどまり、従業員は、就業規則が備え置かれている場所を認識していなかったため、労働者がその内容を知ろうと思えばいつでも就業規則の内容を知ることができる状態にあるとは認められない」(エスケーサービス事件・東京地判平成27・8・18)

・就業規則の変更につき、経営会議や全体朝礼で概略的に説明しただけで、賃金の決定・計算について説明文書の配布や説明会の開催などによって全従業員に具体的に説明する努力を払っていなかった事案において「旧制度から新制度への変更は、一般の従業員からすると、その内容を直ちに理解することは困難であり、会社が全従業員に対し、制度変更を周知させる意思があるならば、まず説明文書を用意した上それを配布するか回覧するなどし、さらに必要に応じて説明会を開催することが使用者として当然要求されるところであり、それが特に困難であったというような事情はない」(中部カラー事件・東京高判平成19・10・30)

・ 「説明会や勉強会を開催したり、変更後の概要を記載した書面を配布するなど周知を試みてはいるが、具体的な賃金額や算定根拠等の説明を欠いており、就業義務の周知義務を尽くしたものとはいえない」(NTT西日本事件・大阪高判平成16・5・19)

 ウ 以上の裁判例の傾向から、使用者としては、

  ・ 各作業場への備え置きやクラウドなどにデータを格納などの方法により、労働者が、就業規則の具体的内容に自由にアクセスできる状態にしておく

  ・ 入社時には就業規則の重要な事項について記載した説明文書を配布したうえで、具体的な説明を行い、内容を確認した旨の確認書を取得する

  ・ 定期的な研修や説明会の開催、文書の回覧等により、最新の就業規則について内容確認の機会を設ける

といった対応をとることが望ましいでしょう。

 

5 実務上の注意点とよくある誤解

「保管していればいい」は誤りです。労働者が実際に自由にアクセスできる状態にあるか再確認しましょう。

また、就業規則の内容を変更した際は再周知が必要です。変更点を文書によって明示し、労働者が改定後の新しい内容を把握している状態にしておきましょう。

さらに、外国籍労働者を雇用している企業は、就業規則を多言語化するなど、必要に応じてその理解を促す工夫も考えられます。

 

6 まとめ

就業規則の効力を確保するには、適切な形で労働者に「周知」する必要があります。形式にとらわれることなく、労働者が就業規則を理解し、確認できる環境整備が必要です。

就業規則の作成や周知にお悩みの経営者様はお気軽にご相談ください。

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