労働時間と休憩に関する近時の裁判例について弁護士が解説

 

1 はじめに

時間外割増賃金(いわゆる残業代)の請求を受けた場合に、よく争われる類型の一つに休憩の取得の有無があります。具体的には労働者から「形式上の休憩は付与されていたが、休憩時間も仕事に従事する必要があり、休憩にはあたらず労働時間に該当する」と主張されることがあります。

 

本稿では、休憩について争われた比較的近時の裁判例を紹介し、労働時間か休憩かの判断のポイントを解説いたします。

 

なお、休憩に関する一般的な解説は「労働時間の管理」(https://growth-law.com/page-36/page-4612/page-929/#5)をご参照ください。

 

2 休憩とは

労働基準法第34条に休憩に関する規定が定められていますが、同条第3項にて使用者は労働者に対し休憩時間を自由に利用させなければならないことが定められています。休憩時間とは労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間であるといえます。

 

翻って言えば、労働基準法上の労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間を指すことから、休憩時間と言えるためには、労働者が使用者の指揮命令下に置かれていないという状態にある必要があります。

 

例えば休憩時間として、昼食をとることができる時間であっても、電話番や来客対応を義務付けられ、即時に対応しなければならない状況であれば、いわゆる手待時間として使用者の指揮命令下に置かれており休憩時間にはあたらず労働時間に該当します。

 

また、休憩か労働時間かということについて多く争われるのは「仮眠時間」です。実際に労働者が仮眠時間に睡眠していた時間でも、仮眠時間中に業務対応を行わなければならない可能性がある場合は、休憩ではなく労働時間とされる場合があります。

 

以下に実際に裁判例で争われた事例を紹介いたします。

 

3 休憩ではなく労働時間と認定された裁判例

(1) 福岡地判平成27年5月20日

市営バスの運転手が、転回場所(ある系統の路線の終点かつ別の系統の路線の始点となる停留所)における「調整時間」(ある路線の終点到着後、別の路線の始点として発進するまでの時間)のうち、「待機時間」が労働時間に該当するとした残業代請求の事案です。

 

裁判所は、待機時間は不活動時間に該当するとしながらも、

 

①待機時間中において、運転手は、停車しているバスに乗車してくる乗客への行先案内等の乗客対応を一切拒否することが許容されていたとは考え難く、乗客対応が少なくとも黙示的に義務づけられており、実際にも乗客対応を行っていること、バスから離れ乗客に見つからない場所で休憩するなど乗客対応を避ける行動が許容されていたともいえないことに照らし、待機中すべての時間において乗客対応が黙示的に義務づけられていたと認められること、

 

②調整時間中は、運転手は適切なタイミングでバスを移動することができるよう体制を整えておくことを黙示的に義務づけられていたと認められること、

 

などを理由として待機時間において運転手は使用者の指揮監督下に置かれており、待機時間は労働時間に該当すると判断しました。

 

実際に乗客対応が生じていない場合があったとしても、乗客が現れた場合には対応を行うことが当然の前提とされていたことを重視し、労働からの解放が認められる状態にはないと判断したものです。

 

(2) 札幌高判令和4年3月25日

機械式駐車場のメンテナンス業務の緊急時に備えた輪番制の待機体制に関する事案です。この輪番制には自宅待機と事務所待機の2種類の待機体制がありました。

 

このうち自宅待機については、いわゆる呼出待機の状態であり、自由に時間を過ごすことができることから、労働からの解放が保障され使用者の指揮命令下から離脱したものと評価することができるが、一方で事務所における待機中は、顧客からの電話連絡が入ると、速やかに現場に向かうことができるように義務付けられていたことから事務所に待機していたと認められる時間帯については、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働時間に当たると判断したものです。

 

同じ待機時間であっても、自由に時間を使用することができる度合いの違いなどから一方は労働時間に該当せず、一方は手待ち時間として労働時間に該当するとされた事案です。

(3) 千葉地判令和5年6月9日

知的障害グループホームの従業員(生活支援員)が、宿泊を伴う夜勤時間帯の就労について休憩ではなく労働時間であるとした事案です。

 

当該グループホームでは、夜勤時間帯にも行動障害を伴う入居者の深夜又は未明の行動への対応など、生活支援員が駐在する必要性があって各施設1名の生活支援員が宿泊し勤務していた等の事情から、前記従業員が夜勤時間帯に生活支援員としてグループホームに宿泊していた時間は、実作業に従事していない時間を含めて、労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価することができるから、労働からの解放が保障されているとはいえず、使用者の指揮命令下に置かれていたものと認められるとして労働時間であると判断されました。

 

実際に、入居者対応を行っていなかった時間があったとしても、対応を行わなければならない日が多く、そのために宿泊を伴う人員配置がなされていたことを重視し、宿泊時には自由に時間を使うことができる状態にないとして労働時間であると認定したものです。

 

4 労働時間に該当しないと認定された裁判例

(1) 静岡地判令和4年4月22日

新幹線沿線警備業務に従事していた労働者らが休憩時間中もすぐに出勤できるように待機していたため、仮眠時間等の休憩時間も労働時間に該当するとして、未払残業代請求を行った事案です。

 

裁判所はまず、仮眠時間中、仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務づけられるとしても、その必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に前記のような義務付けがなされていないと認めることができるような事情が認められる場合においては、労働基準法の労働時間には当たらないと解されると示しました。

 

そのうえで、休憩時間中に緊急要請があった場合には直ちに相応の対応をすることが義務づけられているものの、休憩時間中に出動要請を受けたのは労働者1人当たり2年に1回程度しかなく、いずれも出動後に代替の休憩時間を取得していること、いずれの要請も悪天候時の点検で、当日の天候により予測できるものであったこと、警備業務は補佐的で、出動要請への対応が遅れてもクレームや懲戒の対象にはならないこと、休憩時間中は自由に過ごせることからすると、休憩時間については、緊急要請に対して直ちに対応する必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に対応すべき義務付けがされていないと認めることができるような事情があるとして労働時間に該当しないと判断しました。

 

対応しなければならないよう指示があるとしても、実態としてほとんど対応の必要がない事実関係がある場合や、実際に多くの時間自由に過ごせる時間がある事情のもとでは労働時間にあたらないとされています。

(2) 大阪地判令和3年3月29日

高速道路料金所の料金収受員として勤務していた労働者が、休憩時間及び仮眠時間において、種々の業務対応を義務付けられており、労働時間に当たると主張し未払残業代を求めた事案です。

 

裁判所は原告が勤務していた一般料金所において、休憩時間中も安全の観点から料金所からでることはできなかったものの、料金収受員に対し、通行車両が料金所のブースに接触してこれを損壊するなどの緊急事態以外には、休憩・仮眠中の者に対応することを求めておらず、休憩室における待機と警報等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられていたとは認められず、また、対応を求められていた上記緊急事態についても、その実作業への従事の必要が皆無に等しく実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるとして、これらの時間は労働時間に当たらないと判断しました。

 

万が一の場合の対応を行わなければならない指示があったとしても、それが緊急性が高い場合に限定されており、実際に実働する機会がほぼ無いような場合には労働時間にあたらないことが示されました。

 

5 対応の指示がある場合の労働時間該当性

休憩時間において、労働者に対し何らかの業務対応を義務付ける場合は、原則として労働時間に該当します。ただし、当該義務付けが頻繁には生じない事情に対する対応等であり、かつそのような対応すべき事情が発生しない状況においては労働者が自由に過ごすことができる事情がある場合は例外として労働時間に該当しないということができます。

 

従って、休憩中であるにもかかわらず、日常的に対応が必要な指示を行っている場合は労働時間と認定されることに注意が必要です。

 

6 グロース法律事務所の残業代請求対応

グロース法律事務所は労働問題における使用者側専門の法律事務所として、労働者からの未払残業代請求に対応しております。本稿にて解説した休憩時間管理等について、不安がある場合はぜひお問い合わせください。

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徳田 聖也

徳田 聖也

京都府出身・立命館大学法科大学院修了。弁護士登録以来、相続、労務、倒産処理、企業間交渉など個人・企業に関する幅広い案件を経験。「真の解決」のためには、困難な事案であっても「法的には無理です。」とあきらめてしまうのではなく、何か方法はないか最後まで尽力する姿勢を貫く。

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