高度プロフェッショナル制度とは?制度の概要・要件・導入手続を弁護士が解説
Contents
1 はじめに
近年、働き方改革関連法によって導入された「高度プロフェッショナル制度」が注目されています。
この制度は、従来の労働時間規制を前提とした仕組みから一歩踏み出して、専門的な知識やスキルを持ち、かつ、高い収入を得ている労働者について、労働時間に関する規制を適用除外とするものです。
つまり、「何時間働いたか」ではなく、「どのような成果を挙げたか」によって評価される働き方を認める仕組みといえます。
制度の狙いは、優秀な人材に対して柔軟で効率的な働き方を可能にすることにあります。労働時間の長さと成果が必ずしも比例しない高度専門職においては、時間管理に縛られずに成果を最大化することが合理的だからです。
ただし、労働時間の規制から外れることは、長時間労働やそれによる健康被害のリスクを高める側面もあるため、導入には慎重な検討と十分な安全配慮が不可欠となります。
本記事では、高度プロフェッショナル制度の概要から導入のメリット・デメリット、対象者の条件、導入までの手続、さらに導入を考えている企業がどのような点に注意すべきかということについて、解説します。
2 高度プロフェショナル制度(労基法41条の2)とは
高度プロフェッショナル制度は、2019年4月に改正された労働基準法によって、新たに設けられた制度です。
従来、労働時間・休憩・休日・割増賃金といった規制により、企業が労働者に対して長時間労働をさせないという方向性で法整備がなされてきました。しかし、高度プロフェッショナル制度は、対象の労働者について、これらの規制を一律に適用除外とする大胆な仕組みになっています。
この制度の背景には、高度な専門職は労働時間が成果に比例しないという発想があります。例えば、金融市場の動きを予測する金融ディーラーや、新しい技術を研究開発する者は、必ずしも長時間労働が成果に結びつく訳ではありません。むしろ、働き方について広い裁量を与えることで、パフォーマンスを最大化できるという側面があります。
他方で、労働時間規制を外すことは、労働者保護の観点から大きなリスが伴います。そのため、制度導入に当たっては、対象となる業務範囲や年収要件が法令で厳格に定められており、さらに、企業は健康確保措置を講じることが求められています。
3 制度導入のメリットとデメリット
⑴ メリット
高度プロフェッショナル制度を導入することのメリットとしてまず挙げられるのは、成果主義に基づく評価が可能になる点です。労働時間ではなく成果そのものが評価対象になりますから、効率的な働き方への動機付けとなり、結果的に生産性が向上することが期待されます。
また、企業としては、労働時間に比例して残業代が膨らむといった負担を抑えることができ、人件費の効率的な管理・削減につながります。
さらに、自律的な成果を出す働き方を求める優秀な人材にとって魅力的な制度ですから、人材獲得競争においてもプラスに働く可能性があります。
⑵ デメリット
一方でデメリットも見逃せません。
最大のデメリットは評価基準の設定の困難さです。メリットとして成果主義に基づく評価が可能になる点を挙げましたが、研究開発業務のように成果が出るまでに長い年月を要する業務においては、何をもって「成果」とみなすのかが不明確になりやすく、適切な評価基準を設定しなければ労働者の不満につながります。
加えて、労働時間規制が適用されないため、適切に管理しなければ長時間労働が常態化し、過労死や健康被害といった深刻なリスクに直面します。この場合、企業は安全配慮義務違反を問われ、法的・社会的な責任を問われるリスクがあります。
4 対象となる労働者
⑴ 業務範囲
高度プロフェッショナル制度が対象とする業務は、厚生労働省令で定められた特定の業務に従事する労働者に限られます。
すなわち、高度の専門的知識等を必要とし、その性質上従事した時間と従事して得た成果との関連性が通常高くないと認められるものとして厚生労働省令で定める業務です(労働基準法41条の2第1項第1号)。
具体的には、
・金融工学等の知識を用いて行う金融商品の開発業務
・資産運用の業務、有価証券の取引業務のうち投資判断に基づく資産運用の業務(ディーリング業務等)
・有価証券市場における相場等の動向、有価証券の価値等の分析、評価、これに基づく投資に関する助言の業務(アナリスト業務等)
・顧客の事業の運営に関する重要な事項についての調査・分析およびこれに基づく当該事項に関する考案・助言の業務(コンサルタント業務等)
・新たな技術、商品、役務の研究開発にかかる業務
がこれに当たります(労働基準法施行規則34条の2第3項)。
これらは、いずれも高度な専門的知識を必要とし、従事した時間と成果が必ずしも連動しないと考えられる仕事です。
⑵ 年収要件
さらに、対象者には年収要件が課されており、労働契約により使用者から支払われると見込まれる賃金額を1年当たりの賃金額に換算した額が基準年間平均給与の3倍の額を相当程度上回る水準として厚生労働省令で定める額以上であることが必要です(同号ロ)。
具体的には、年収が1075万円以上の者を指します(労働基準法施行規則34条の2第6項)。
5 制度導入の要件と手続
企業が高度プロフェッショナル制度を導入するためには、単に対象の労働者を指定するだけでは不十分であり、法令に基づく手続を踏む必要があります。
⑴ 労使委員会の設置とその決議
まず必要なのは、労使委員会の設置とその決議です。
賃金、労働時間その多の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会が設置された事業場において、当該委員会が委員の5分の4以上の多数による決議により、所定事項を決議し、使用者が当該決議を行政官庁に届け出ることが必要です(労働基準法41条の2第1項柱書)。
決議事項は、
・対象業務の範囲
・対象労働者の範囲
・健康確保措置の内容
・同意撤回の手続
・苦情処理の手続
です。
⑵ 本人の同意
次に、対象労働者本人の同意が必要となります。すなわち、書面その他省令で定める方法によりその同意を得て、対象業務に就かせる必要があります(労働基準法41条の2第1項柱書)。
さらに、この同意は、いつでも撤回可能とされており、労働者が望めば通常の労働時間規制に戻すことができます。当然、任意の同意が要求されますから、同意をしなかったことや撤回したことを理由とする不利益取り扱いは禁止されます。
⑶ 健康確保措置
さらに企業は、労働者の健康を確保するための措置として以下を実施する必要があります。
年間104日以上、かつ4週につき4日以上の休日を与えることが必要です。
そのうえで、インターバル制度の導入、一定期間の健康管理時間の上限制、連続休暇の付与、臨時の健康診断といった措置の中からいずれかを選択して実施しなければなりません。
もし労働者の健康管理時間が厚労省の定める基準を超えた場合には、医師による面接指導を受けさせ、その結果に基づいて職務内容の変更や休暇付与など必要な措置を講じることが求められます。
以上述べたように、高度プロフェッショナル制度の導入には多くの手続と厳格な要件が課されていることに注意が必要です。
6 最後に
高度プロフェッショナル制度は、成果主義を採用し、優秀な人材の力を最大限に引き出す可能性を秘めています。しかし、その一方で、健康リスクや評価基準の難しさといった課題も大きく、導入を誤れば労務トラブルを引き起こすリスクを抱えています。
導入を検討する際には、まず対象業務の適格性や年収要件の充足を確認したうえで、労使間での十分な議論を経て合意形成を図る必要があります。そして、制度を適切に運用できる体制、特に健康管理や労務管理の仕組みを整えることが欠かせません。
制度の導入を考えておられる場合は、弁護士や社労士などの専門家の助言を受けることをお勧めします。

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