「利用規約」を契約内容とするための留意点を弁護士が解説

1 はじめに

「利用規約」は企業間契約においても、企業対個人の契約においても、また、取引の種別問わず用いられることのある名称です。

すなわち、「利用規約」は、大量の取引を迅速に行うため、詳細で画一的な取引条件等を定める場合に用いられる場合もあれば、そうでない場合もあります。

前者の場合は、民法上「定型約款」とされているものであり、利用規約は「定型約款」の一つとして処理されることになりますが、後者の場合は、そうではありません。

また、民法の「定型約款」であることの意味は、「契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されない」という民法の原則を変更することにありますが、民法上の要件を満たしていなければ、契約の相手方を利用規約によって拘束することができません。

本稿では、民法の「定型約款」の一つとしての「利用規約」について、概説を致します。

 

2 民法の「定型約款」とは

約款とは、一般に大量の同種取引を迅速・効率的に行う等のために作成された定型的な内容の取引条項をいいます。

鉄道・バスの運送約款や、電気・ガスの供給約款をイメージすれば明らかなように、現代社会においては、大量の取引を迅速に行うため、詳細で画一的な取引条件等を定めた約款を用いることが必要不可欠です。

一方、冒頭述べましたとおり、民法の原則は、「契約の当事者は契約の内容を認識しなければ契約に拘束されない」というものです。これは、契約途中で契約内容を変更しようとする場合も同様です。

しかし、このような民法の原則を貫いた場合には、大量・画一的取引の要請に対応することが出来ません。

そこで、改正前民法においては、このような約款の取扱について明確なルールが定まれていませんでしたが、現行民法では、

① ある特定の者が不特定多数の者を相手方とする取引で

② 内容の全部又は一部が画一的であることが当事者双方にとって合理的なものを 「定型取引」と定義し、この定型取引において、

③ 契約の内容とすることを目的として、その特定の者により準備された条項の総体

を「定型約款」と定義し、要件を充足する約款に関して当事者間の契約内容とすることを認めました。

具体的には、

① 定型約款を契約の内容とする旨の合意があった場合

② 取引に際して、定型約款を契約の内容とする旨をあらかじめ相手方に「表示」していた場合(なお、相手方への「表示」が困難な一定の取引類型(電車・バスの運送契約等)については、「公表」で足りる旨の特則が個別の業法に設けられています。)

という要件(組入要件)を満たす場合には、定型約款の条項の内容を相手方が認識していなくても、これに合意したものとみなし、当事者間の契約内容となることを明確化しました。

また、定型約款を承諾する立場にある相手方は、定型約款の条項の細部まで読まないことが通常ですが、「不当な抱き合わせ販売」「定型約款作成者側の一切の免責」など、不当な条項が混入している場合もあり得ます。そこで、現行民法は相手方の利益を一方的に害する契約条項であって信義則(民法1条2項)に反する内容の条項については、合意したとはみなさないことも明確化しました。

さらに、長期にわたって継続する取引では、法令の変更や経済情勢等の変化に対応して、定型約款の内容を事後的に変更する必要が生じますが、合意を原則とする民法の原則ではその必要性をカバーすることが出来ません。

そこで、現行民法は、

① 変更が相手方の一般の利益に適合する場合、又は、

② 変更が契約の目的に反せず、かつ、変更の必要性、変更後の内容の相当性、定型約款の変更をすることがある旨の定めの有無及びその内容その他の変更に係る事情に照らして合理的な場合

には、定型約款を作成する側の当事者が、一方的に定型約款を変更することにより、契約の内容を変更することが可能であることも明確化しました。

 

3 「利用規約」について

鉄道・バスの運送約款や電気・ガスの供給約款、保険約款はもとより、インターネットサイトの「利用規約」については、基本的にこの定型約款として処理されることを想定していると思われます。

しかし、民法の定める要件を充足していなければ、取引の相手方を拘束することが出来ませんので、留意が必要です。

す。

貴社「利用規約」については、どういう取引類型を想定して作成しているのか、定型約款であるとして民法の要件を充足しているのか、不当条項として契約内容とならないリスクのある条項が存しないか、検証いただければと思います。

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